パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【スキャナーズ】超能力者同士はこうじゃなきゃ+西柳ヶ瀬の思い出

僕の敬愛する監督、デヴィッド・クローネンバーグ出世作スキャナーズ(1981)。

 

彼はこの後、「ザ・フライ」(1986)を作ったりしますが、僕的には「ヴィデオドローム」(1983)や「裸のランチ」(1991)の不可解ぶりが好きてした。

今では作家性の高い監督だと言われてますが、この映画は彼の作品の中でも、比較的分かり易いので、SF心があれば楽しめると思います。

 

僕は時々、思いついたように見ていて、前回は3年ぐらい前に見てるんですが、PRIME VIDEOにリストア版が配信されたので、早速見てみました!

 

(あらすじ)

浮浪者の主人公が、ショッピングセンターのフードコートで自分の悪口を言っている女性を睨みつけると、彼女は急に苦しみ出した。自分の無意識の力のせいだと悟った主人公はその場から去るが、謎の人間たちに追われて、麻酔銃で眠らされる。目を覚ますと、超能力研究者の教授から、人間に敵対する超能力者を殺害するように依頼される・・・


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この映画を(塾をサボって)初めて見たのは封切の時。岐阜の柳ヶ瀬劇場という映画館です。

この劇場があったのは西柳ヶ瀬っていう地域。

大人から「あそこには行っちゃダメ」って言われるような場所でした。

簡単に言えば「岐阜の歌舞伎町」と言える大人の夜の街です。

子供の時に「行っちゃダメ」って言われ続けたせいか、今でも西柳ヶ瀬に行くと「自分の知らない何か特別なものがあるんじゃないか」ってドキドキしますw

今はもう、昭和の頃に比べたら随分寂れてますが、昭和風情をビシビシと感じるのは良い場所です。

 

そんな地域にある柳ヶ瀬劇場の裏は真砂座というストリップ劇場

ちなみに真砂座は今も東海唯一のストリップ劇場として営業しています。

今は昭和文化の発信地として、Tシャツなどのグッズ販売したりしてるようで、サブカル系の女性のお客さんも多いようです。

(このブログのバナーは真砂座の入り口です)

 

実はこの映画を見た時、凄い経験をしました。

スキャナーズ」を見てるところで、場内に煙が入ってきて「???」となったら、急に映画が止まって「外に出てください」のアナウンス。

裏のストリップ劇場で小火があったから、今日はもう上映しなません、と出口で再入場券をもらったんです。

外に出たら、路上にストリップ劇場の踊り子さんたちが毛布にくるまってました。

めっちゃドキドキしましたね。

ちなみに「スキャナーズ」は後日、再入場券で見直しました。

 

そんな思い出のある柳ヶ瀬劇場は、地域柄か元々は成人映画館でした。

ある日、突然「さらば宇宙戦艦ヤマト」(1978)が上映されてビックリした記憶があります。

当時の岐阜の中心街には一般の映画館が8館ありました。

それでも足りなくて、昭和50年代に成人映画館5館のうち3館が一般映画を上映するようになりました。

ただし柳ヶ瀬劇場を始め、そういう映画館は成人映画と普通の映画を二週間おきぐらいに交互で上映してました。

 

そんな岐阜の中心地・柳ヶ瀬も、今や4スクリーンのシネコンっぽいところと、名画座だけになってしましいました。

この映画を見た柳ヶ瀬劇場も今はありません。

柳ヶ瀬劇場が入ってたビル

上の写真は柳ヶ瀬劇場が入ってたビルです。ビルとしては今でも現役。
壁に「柳ヶ瀬劇場」の名前が残ってます。

 

西柳ヶ瀬の朝日劇場

上の写真は柳ヶ瀬劇場の入ってたビルの反対側にある成人映画の映画館。

今でも現役のようです。岐阜市では唯一残った成人映画の上映館かもしれません。

 

すみません、話が逸れ過ぎました。

 

スキャナーズ」を初めて見終わった時、真っ先に思ったのが「ただ、ただ面白い!」。

その後も数年おきに見てますが、毎回テンポのいい演出と、飽きのこない展開に飽きることがありません。

スキャナーズ パンフレット

はっきり言えば、超B級SF娯楽作

崇高な思想や、社会問題の提議なんてものはカケラもありません。

限られた予算の中で、ひたすら良質な娯楽を追求した結果、それが報われた作品です。

 

とにかくお金がない代わりに、設定や脚本、演出に力を入れてます。

 

まずこの映画の主題である超能力=見えない力を、きちんと表現しています。

広告では序盤に出てくる頭部破壊(予告編にも出てくる奴)を全面に押し出してました。

でも派手派手しい超能力は、これとラストだけかな。

あとは強く念じると相手が吹き飛ぶとか、発火するとか(手から炎が出るわけではない)、相手の心に入ってマインドコントロールするとか、そういう類いです。

 

要は超人ロックみたいに、超能力で惑星まで破壊しちゃうとか、何度も転生するとか、そういう荒唐無稽過ぎちゃうところがないってことです。

(ちなみに「超人ロック」は大好きでした。コンウォールの嵐とか良かったなぁ)

 

話の展開的にマンガチックになるところはありますが、全体的に僕らのような人(10代で頭の中が止まっているようなSFヲタク)には、程よく「現実にありそう」的な感じですした。

(勿論、ただの僕らの妄想の基準でしかないですけど)

そういう点では、このブログで以前紹介した「フューリー」(1978)と似てます。

 

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

まず主人公の設定がいいですね。

エリートでもなければ、平凡な一市民でもない。

浮浪者ですよ、浮浪者。

それもオープニングから、フードコートで他人が食べ残したポテトやハンバーガーを食べてるんです。

それを見た中年女性が自分の陰口を言うのを聞いて、ついカっとなったら、超能力が発動しちゃって、女性が苦しみ始めるんです。

でも、陰口言われても仕方ないですよね??

 

そんなワケで、いきなり主人公が浮浪者っていうのが、びっくりでした。

でも、なんで浮浪者になったかっていうと、超能力のせいで人の心の声がいつも頭の中に流れ込んできちゃうから。

一般的に言うところの電波系ってやつですね。

 

超能力を抑える薬を貰ってから、徐々に超能力者としての自覚が生まれ、見た目も普通の人になってきます。

(やや傲慢になったりしますけど)

そこからは一般人の殺し屋とのバトル、陰謀と隠された過去、逆襲、敵の超能力者との最終決戦と、1時間45分の中でコンパクトにまとまってます。

追ってるはずが、追われてたり、味方だと思ったら敵だったり、と飽きない構造になっていて、良く練ってある脚本だと思いました。

 

特にラストのオチはよく考えられてます。

へーー、って思いました。

これは見て、確認してみて下さい。

 

超能力の表現は、特殊効果をポイントポイントに絞って、効果的に表現されていて、安物感はなし。

 

難を言えば、「これぞ!」という大きな見せ場がないこと。

小さなエピソードを繋いでいく形なので、全体的な起伏が足らないように感じます。

クライマックスのバトルも、それなりに迫力はありますが、大団円!というほどではないです。

良く解釈すれば、ちょっと淡々としたところが「リアル」と言えば、「リアル」なんですが。

 

主人公役のスティーヴン・ラックは、浮浪者も、その後の超能力者も違和感なく演じ分けてます。

そんなに強そうには見えませんが、ちょっと行き過ぎな感じもする意志力を感じさせる頼もしさがあり、存在感があります。

見た目がやや地味なところがスーパー超能力者に見えなくて、この映画には合ってたんじゃないでしょうか。

 

ヒロイン役はジェニファー・オニール

大人の女性って雰囲気です。

この映画は恋愛要素ゼロなので、主人公と行動を共にする仲間。

自分も超能力を使う側で、大人しそうなのに、いざという時には主人公に負けないぐらい強力な能力を発揮する、そのミスマッチさがいいです。

 

そしてこの映画を引き立ててるのは、間違いなくマイケル・アイアンサイドが演じる冷酷な悪役超能力者。

見た目だけでなく、逝っちゃってる感じが「シャイニング」のジャック・ニコルソンにそっくり

この悪役超能力者のサイコっぷりのお陰で、「この敵は強い」と観客に印象付けたことでドラマが盛り上げました。

マイケル・アイアンサイドはこの映画で注目され、今に至るまで映画俳優として活躍しています。(「トップガン」(1986)にもパイロットの一人として出演してたのは知らなかった)

 

とにかく80年代B級SF娯楽作の中では、かなりかなりレベルが高いので、その手の映画が好きな人には是非見てもらいたいです。

まぁ、普通の映画好きの人でもちゃんと楽しめる映画だと思います。(とって付けたようですみません)

 

余談になりますが、公開時は米国のカリスマSF作家フィリップ・K・ディックの「暗闇のスキャナー」が原作って言われてました。でも内容が全然違うんですよ。「暗闇のスキャナー」の主人公は超能力者ではなく、麻薬中毒の覆面麻薬捜査官です。スキャナーという言葉しか共通点がない気がします。

フィリップ・K・ディックと言えば「ブレードランナー」(1982)の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が有名ですね。

丁度、この頃、彼の作品「流れよわが涙、と警官は言った」の日本版が出版されるということで、SF雑誌がフィリップ・K・ディックを取り上げていた記憶があります。(出版はこの映画公開の2か月後)

だから、「暗闇のスキャナー」が原作っていうのは、当時のフィリップ・K・ディック人気に乗っかった、映画に箔を付けるためのガセ情報だったんじゃないでしょうか。

 

ちなみに「暗闇のスキャナー」は、2,006年にキアヌ・リーヴィス主演で「スキャナー・ダークリ―」というアニメのような、実写のような不思議な映像で映画化されてます。

 

そう言えば岐阜で初公開時の同時上映はボール・ニューマン主演の警官物「アパッチ砦・ブロンクス(1981)。

こちらも「忘れられた映画」っぽく、DVDも入手困難(そもそも日本版は発売されてない?)なし、レンタルやVODにもないようです。

 

今回はPrime Videoのサブスクで4Kリストア版を見ましたが、画面は確かにキレイになってました。

 

ちょっと今回は雑談部分が多かったですね~。

昭和の街に興味がある方は、岐阜市に来てみて下さい。

名古屋から電車で20-30分。駅前と柳ヶ瀬(駅前から徒歩20分ぐらい)に昭和の香りが残ってます。

 

リストア版のBlu-rayが出てますが、そこそこいい値段です。