パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【デストラップ 死の罠】面白いけど、竜頭蛇尾

登場人物の少ない密室ミステリーって、面白いですよね。

登場人物が少ない分、それぞれのキャラがはっきり分かるし、人間関係の描き方も濃密になります。

そんな期待をしちゃうのが「デストラップ 死の罠」(1982年製作/1983年公開)。

有名舞台の映画化だそうです。

当時からちょっと気になる映画だったんですが、未見でした。

この機会にレビューします!

 

(あらすじ)

ここ数作の評判の芳しくない有名ミステリー劇作家の主人公。今度の新作も初日から散々な評判となっていた。そんな彼に元に、学生から処女作を見て欲しい、と戯曲が送られてくる。その素晴らしい内容に、主人公は彼を殺害し、そのまま自分の作品として発表することを企むが・・・

 


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登場人物は主人公、その妻、そして処女作を送ってきた学生の実質三人。

そこに超能力者のおばさんや弁護士がちょこちょこ出てくるぐらい。

そして冒頭と終わりを除けば、ほとんど作家の家の中だけで繰り広げられる密室劇です。

 

Blu-rayのジャケットは、公開時のオリジナルポスターなんですが、ちょっとおしゃれな感じで好きでした。

ルービックキューブがモチーフになってるのは世相を感じますね。

アメリカの会社がルービックキューブを世界的に発売したのは、この映画の2年前の1980年)

デストラップ 死の罠 Blu-rayジャケット

 

この映画の特徴は絵作りや演出共にかなり「舞台」を意識していること。

 

演劇から映画になったからと言って、場面がコロコロ変わることはありません。

本当にメイン舞台の作家宅のリビングルームからカメラが出るのは必要最低限のレベル。

映画になったんだからって無理やり外の風景を入れてきません。

 

そして主要舞台のリビングは、明らかに舞台セットをそのまま再現したような作り(観客に向かって広がっているような感じ)だし、明かりもちょっと不自然気味。

 

出演者(特にマイケル・ケイン)の演技も、演劇チックな大仰なセリフ回しと派手な身振りが目立ちます。

音声も劇場で見ているように、少しエコーがかけてあったのは気のせいでしょうか。

 

これって監督があえて「舞台劇を無理やり映画の形に作り直さず、出来るだけそのまま映画の中で再現した」ように見えます。

そのため舞台劇というステージのだけの世界から生まれる制約を、そのまま映画に持ち込んでいるようなので、普通の映画として見た人には物足りなさやもどかしさがあったんじゃないでしょうか。

人によっては「なんか不自然で、映画っぽくない」って感じるんじゃないでしょうかね。

 

僕なんかは昔、演劇にハマってた時もあったので、そういう演劇っぽい演出が反対に面白かったんです。

見ながら「舞台の時は、ここはどういう風に演出してたんだろう?」って想像したりして、見てました。

 

肝心のストーリーですが、さすがヒット劇だけあって飽きることはありません。

前半と後半でガラッと話が変わる構成は上手いです。

前半の下敷きになっているのはミステリーの名作「悪魔のような女」(1955)かな?

(あ、これ分かる人にはネタバレになちゃうかも)

 

見どころはミステリーらしい騙し、騙されのやりとり。

登場人物同士のセリフの応酬で、話を引っぱっていくのはまさに演劇的。

特に主人公のマイケル・ケインと学生のクリストファー・リーヴの丁々発止はかなり面白いです。

 

ミステリーには似つかわしくない超能力者のおばさんが登場します。

観客を惑わせる「予知」が、ちょっとしたアクセントになってました。

正直、超能力者だから、ヒントも何もなしで、おろんなことが分かっちゃうのは、ミステリーとしては反則だけど、この映画をミステリーではなく、サスペンスだと思えば許せるか。

 

ただ、ミステリーとしてもそこそこ良質なので、ここは超能力者っていうのも、実はちょっとしたヒントをいろいろと拾い集めて、予知が出来るふりをしてる詐欺師でした、って展開にして、ミステリーとして生かすようにしてくれたら良かったかも。

 

そしてオチがちょっと残念

あそこまで考えられた展開だったのに、意外なほどストレート過ぎる終わり方は、それまでの話に比べて凡庸。

「どんなどんでん返しが来るんだろう?」っていう期待が見事に裏切られました。

 

主演のマイケル・ケインは自分は優秀だと思ってるのに、どことなく隙がある役を上手に演じてます。

元々、頭の切れる役が上手い分、その雰囲気を逆手に取った感じでしょうか。

この映画での、彼の演劇的な演技とセリフが「舞台を見てる!」っていう感覚にさせてくれて、個人的には気に入ってます。

 

そう言えばマイケル・ケインの密室ミステリーと言えば「探偵<スルース>」(1972)っていうのがありました。

老ミステリー作家と彼の妻の愛人である若者のやりとりを描いた作品で、やはり舞台の映画化でしたね。

この時のマイケル・ケインは若者の方でした。

ちなみにこの「探偵<スルース>」は「スルース」(2007)に再映画化されてますが、マイケル・ケインは老作家の方で出演してます。

 

そして何より、この映画で目を見張るのはクリストファー・リーヴのちょっとサイコな演技。

彼が豹変するところがこの映画の肝でもあります。

マイケル・ケインの演劇的演技に比べ、彼の演技は極自然。

スーパーマンシリーズのイメージを完全に脱却してます。

こんな演技が出来るのに、この映画の後もスーパーマンシリーズに出続けたのが不思議でなりません。

(この映画は「スーパーマンⅡ/冒険編」(1980)と「スーパーマンⅢ/電子の要塞」(1983)の間)

またあの落馬事故さえなければ、俳優として大成したんじゃないかと思うと残念です。

 

全体的には、良質な映画だと思います。

演劇のミステリー劇が好きなら、より楽しめるかも。

それでも、やっぱり最後のオチは納得いきませんけどね。

 

残念ながら、現在ではDVDもBlu-rayも入手困難です。