「サスペリア」(1977)のダリオ・アルジェント監督のサスペンス映画「サスペリアPART2」(1975)
「ダリオ・アルジェント監督の最高傑作」と評する人もいるほどの作品です。
初公開時に劇場で見た時は、残酷シーンばっかり記憶に残って肝心な話がさっぱり残りませんでした。
その後、(ダリオ・アルジェント好きなので)何年おきかに繰り返して見るうちに「なるほど~」と、やっと冷静に見れるようになったんです。
そんな作品を今回改めてレビューします。
(あらすじ)
イタリアで超能力者が、講演会中に聴衆の中に過去に殺人を犯した者がいて、更にこれからも殺人を重ねると予告する。
その夜、イタリアに滞在してる音楽家の主人公は、その超能力者が殺害される現場を目撃。新聞記者と一緒に事件を追うことになるが・・・
何よりも「サスペリアPART2」と言えば、個人的に「最も不幸な邦題を背負った映画」です。
それは何故か?
「サスペリア」が日本で爆発的にヒットしたことで、配給会社の東宝東和が二匹目のドジョウ狙いに、ダリオ・アルジェント監督の2年前の未公開作品を。あたかも「サスペリア」の続編のように見せかけるため、「サスペリア」と全く関係ない映画なのに、「サスペリアPART2」という邦題を付けられてしまったんです。
今では原題「Proffond Rosso」の直訳である「紅い深淵」を副題に付けて「サスペリアPART2/紅い深淵」と表記されることもあります。
パンフレットには、英語でも「SUSPIRIA PART2」とあります。
徹底してますね(笑)。
邦題は「サスペリア」と付けられてるし、パンフレットの表紙もおどろおどろしい雰囲気になってますが、この作品はホラーではなく、サスペンスです。
本とかではミステリー映画に分類されたりもしますが、個人的にはちょっとビミョー。
その理由は後で説明します。
この映画、「サスペリア」のような、超個性的なライティングや目を見張る美術もありません。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
残酷描写はあるものの、意外に絵作りは普通。
じゃ、雰囲気のない映画かというと、そんなことはありません。
童謡、奇怪な人形、奇抜な絵、壁に描かれた子供の絵など、至るところにオドロオドロしい小ネタが散りばめられていてます。
どれも不気味なものばかりなので、ホラー???と思っちゃう人がいても不思議ではありません。
このドキドキするような雰囲気作りはさすがです。
そしてこの映画の肝は、有名な「見ているようで見ていない」という仕掛け。
ネタバレがバリバリの僕のブログですが、このネタだけは秘密にしておきます。
分かった時に、「なるほど」と感心。
二回目に注意して見てると、やっぱり「なるほど」と感心。
これはさすがです。
だが、このネタを除けば話自体は・・・はっきり言って相当にいい加減です。
辻褄は何とか合ってるんですが、かなりご都合主義。
急にひらめいたり、急にヒントが出たりなんて当たり前。
最後まで何故、犯人が主人公の先回りをして、重要人物を殺せるのか分かりません。
もっと言えば、「え?そいつが犯人だったの?」という唐突感。
そんな人、出てたっけ?っていうレベルです。
突っ込みどころ満載どころか、突っ込みどころだけで成り立ってる映画と言っても過言ではありません。
主人公が殺人事件を追ってるのに、観客にヒントらしいヒントを与えないんですよ。
ってか、主人公たちが謎に迫っていく、っていうより、困ると向こうからヒントがやってくる感じ。
だから「殺人事件を追う音楽家」っていう設定自体はミステリーだと思うんですが、どう考えてもミステリーの要素はありません。
大体、最初の殺人からして動機がどうもはっきりしないんですよね。
劇中で「過去にトラウマがある人は、それを思い出させるものがあると、とっさに殺人を犯してしまう」といった説明があるんですが、それって冒頭で超能力者に「この中に殺人を犯した人がいるわ。そしてまた殺すわ!」って言われたことなんですか?
それって「思い出させるもの」も何も、めっちゃストレートに責めてますよね?
それで頭にきて、「この超能力者、ぶっ殺す!」になったんでしょうか?
まぁ、こういう筋立てはダリオ・アルジェント監督の十八番。
こんな雑な展開にブツクサ言ってたら彼のファンとは言えません。(キッパリ)
はっきり言って、この映画は「緊張感のある、おどろおどろしい雰囲気」を堪能することを目的として作られてます。(多分)
一番近い存在はお化け屋敷。
お化け屋敷ってテーマや設定はあっても、ストーリーは怖がらせるビジュアルをサポートするための大雑把な存在じゃないですか。
ね、似てるでしょ?
「サスペリア」も雰囲気重視だったので、どちらもダリオ・アルジェント的お化け屋敷ってところでしょうか。
ちなみに話のことをメタメタに言ってますが、意外にも見ている間は気にならないんですよ。
この映画、ダリオ・アルジェント監督の作品の中で、最も雑な話が雑に見えない演出と構成じゃないですかね。
あ、これじゃ褒めてるんだか、けなしてるんだか分からないですけど。
ラストのエンドクレジットで、血だまりに映る主演のデヴィッド・ヘミングスの、なんとも言えない放心したような表情がいいです。
まぁ、「ところで、この事件は何だっただろう?」って思ってるのかも。
観客も同じ気持ちになってるからシンクロ率高いです。
主人公の音楽家を演じるデヴィッド・ヘミングスは、ちょっと眠そうな表情が魅力的。颯爽とはいかないけど、素人ながら事件を追う音楽家という役を期待通りに演じてます。
彼と一緒に事件を追う女性記者はダリア・ニコロディ。
アルジェント監督の奥さんです。
初めて見たときは、ちょっと化粧の厚い女性だなぁ、としか思わなかったんですが、この映画を見ていくうちに、行動力もあって、どことなく憎めない可愛らしい女性に見えてきました。
やっと彼女の魅力に気づく歳になったってことかもしれません。
さて、ダリオ・アルジェント監督作品と言えば、イタリアのプログレッシブバンド「ゴブリン」の音楽です。
この映画のテーマ曲は、彼らの映画音楽の中で最高の出来だと思います。
勿論、映画の中でもゴブリンの音楽はふんだんに使われてました。
しかし残念ながら、場面にマッチして、映画の雰囲気作りに貢献している、という意味では、「サスペリア」には及んでませんでした。
何はともあれ、ホラー/サスペンスファンなら、見ても損のない映画だと思います。
DVD、Blu-ray共に現在では新品は入手困難のようです。