「女囚701号/サソリ」(1972)は、正確には僕の世代の映画ではありません。
映画ヲタクになって、この映画のカルト的な人気を知りました。
クエンティン・タランティーノがこの映画の熱狂的なファンで、この映画の主題歌を「キル・ビル vol1」(2003)で使ったほど。
勿論、リアルタイムでも見てないし、TVでも放送しているのを見たことがありません。
そんなワケで、いつか見なきゃ、と思ってた映画の一本です。
遂にその時が来ました!
(あらすじ)
恋人の刑事に利用され、潜入捜査に使われ、辱めを受けた挙句、はした金で捨てられた主人公は、その元恋人の汚職刑事を刺そうとして捕まえられ、女囚刑務所に収監される。そこは連日、看守たちの横暴が繰り広げられ、同じ女囚のいじめが蔓延る場所だった。主人公はその中で命を狙われつつも、復讐の機会を伺う・・・
1972=昭和47年と言えばコンプライアンスの「コ」の字もない時代。
映画は現代のように「P12]「R15」「R18」なんてカテゴリーはなく、「18禁」(成人映画)か、それ以外(普通の映画)しかない時代でした。
そんなワケで当時は客を集めるため、大人の男性観客をターゲットに「18禁ではないギリギリのエロ・グロ描写」を盛り込んだ娯楽映画(プログラムピクチャー)がいっぱい作られてました。
必然的にエロ・グロが多めの大人向けの劇画に目をつける映画会社は多く、人気のある劇画がたくさん映画化されました。
この「女囚701号/サソリ」もそんな一本。
原作は劇画界の第一人者、篠原とおる先生の人気漫画「さそり」。
昭和の劇画史に名を残す作品です。
現代劇なので、リアルな作品にしようと思えば出来たハズです。
だけど、この映画の凄いところは、リアリティーを追求してないところ。
マンガの映画化(実写化)と言えば、伝統的に「キャラの再現」に注力しがちです。
古くは「ドカベン」(1977)から、最近の「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」(2017)まで「マンガの再現をしようして、コスプレ大会みたいになってしまった」という事例は尽きません。
そのほとんどが「コスプレやり過ぎて、映画の雰囲気をぶち壊してる」という失敗作になってしまってます。
この作品には元々、変なキャラがいないせいもあって、登場人物にコスプレ的なテレツな容姿はないし、笑っちゃうような、普通の映画では見ないオーバーアクションもありません。
しかし、それで油断してはいけないのです。
この映画は演出という面で、いさぎ良いくらい原作の劇画的雰囲気を再現することに腐心しています。
そのため美術セットや演出、俳優の演技に振り切れ感があります。
馬鹿バカしいぐらいの嘘くささを平然とやってのけてるんです。
ドラマチックな夕陽のシーンは、後ろが明らかにハデハデしい書割。
主人公が男たちの集団レイプされるシーンは、なんと透明の床の下から撮影してます。
更に主人公を裏切る刑事が登場するシーンは、なんと主人公の後ろの背景か舞台のようにくるりと回転して、別の部屋にいる刑事が出てきます。(8時だよ、全員集合でよく見たやつです)
ある意味、コスプレより凶悪です。
それが見ている間、実は意外なほど違和感ないのか恐ろしいです。
(あくまでも「意外なほど」ですけど)
これって歌舞伎に近いのかもしれません。
「ワザとデフォルメをして話を盛り上げる」っていうやつですね。
実際に苦笑いしつつも盛り上がります。
舞台劇を映画で見せているという感覚に近いかもしれません。
こういう海外の映画にはない非現実的な演出が、タランティーノ達にウケたんじゃないでしょうか。
しかしこの映画が一番のポイントは主人公のさそりこと、松島ナミ役の梶芽衣子さん。
70年代の女性ダークヒーローのシンボルです。
彼女は劇中では、ほとんど喋りません。
嫌がらせにもひたすら無言で耐えます。
ただ最初から策略を巡らせ、チャンスと見れば、敵対する女囚や刑務官を陥れていきます。それも武力などの実力行使は使いません。相手が自滅するように仕向けるのがほとんどです。
そしてそれを無言、無表情で実行するダークヒーローぶりが痺れます。
梶芽衣子さんをキャスティングしたことで、この映画は80%成功したも同然だった、というぐらい魅力的で、ハマっています。
ちなみに女性のダークヒーローですが、緋牡丹のお竜(「緋牡丹博徒」シリーズ 1968-1972)等があるように、元々、日本では女性のダークヒーローって普通に受け入れられてたと思うんです。
でも海外ではなかなか女性のダークヒーローってメジャーにならないですよね。
ましてや日本映画のように、ドロドロの過去を背負いながら、耐えて耐えて、最後に目的を達成する女性って少ない気がします。
海外の女性のダークヒーローって、映画の前半で酷い目に遭って、後半で反撃に転じるという短期決戦型が多い気がします。
だから余計に海外では、梶芽衣子のダークヒーローぶりが目立ったのかもしれません。
今から思えばタランティーノ監督の「キル・ビル」の主人公「花嫁」は、まさに日本型ダークヒーローへのオマージュだったんじゃないでしょうか。
(殺し屋から足を洗って結婚式を迎えた主人公は、属していた組織から襲撃を受け、花婿、出席者を殺され、妊婦だった自分も凄惨なリンチを受け、4年間の昏睡状態に陥る。目覚めた彼女は組織のボスに復讐する旅に出る)
歌舞伎的大げさな非現実的な演出と、女性のダークヒーローという希少さが、海外で多くのファンを生んだ要因だと思いました。
(でもカルト的な人気ですね、きっと)
話自体は悪い奴は悪く描かれていて、とっても分かり易いです。
あ、いい人はほとんど出て来ないので、割愛します(笑)
基本は主人公がいじめに遭う、又は誰かが彼女を陥れようと画策する → 主人公、一瞬ピンチ → 主人公の策略で相手が自滅、の繰り返し。
これ書いていて思ったんですが、ヤッターマンとドロンボー一味のバトルに似てますね。
この映画には、意外な展開も、ミステリアスな捻りも、掘り下げた人間描写もありません。
昭和の娯楽作品の文法にのっとった作品で。あくまでも面白いものを頭を使わせずに見せるっていうプログラムピクチャーの典型作でした。
だからこそ、素直に面白いなぁ、と思えたんでしょう。
ただ昭和の映画が好き、古臭さが気にならないという人にしか勧められませんが。
さて最後にオマケコメント。
昭和のプログラムピクチャーだけあってエロシーンがバンバン出てきます。
さすがに成人映画のような露骨な絡みはありませんが、舞台が女囚刑務所だけあってオッパイポロリやスッポンポンがいっぱい出てきます。
ちなみに女性刑務所(収容所)物って、70年代には世界的にセクスプロテーション映画(エロを売りにした娯楽映画)の定番でした。
有名なところでは「イルザ ナチ女収容所 悪魔の生体実験」(1974)に代表される70年代の「ナチ女収容所」シリーズですね。
タランティーノ監督の「グラインドハウス」(2007)の冒頭についていた偽予告編の一つ、「ナチ親衛隊の狼女」は、セクスプロテーション映画の定番ナチス物のパロディでした。
「イルザ ナチ女収容所 悪魔の生体実験」の原題「Ilsa, She-Wolf of the SS」
「ナチ親衛隊の狼女」の原題「Werewolf Women of the SS」
原作の「さそり」に。女性刑務所には一日の終わりに囚人は裸になって、工事現場にあるような骨組みだけの階段を上がり、立体駐車場にあるような穴あきの床の上にあるハードルを、両手を挙げたままで幾つも股いで、「不審なものを隠し持ってないか」検査があるという話が出てきます。
その検査は「手を挙げ、大きく足を挙げてハードルを越える様子からカンカン踊りと呼ばれている」とか。
このカンカン踊りの完全再現がオープニングを飾ってます。(予告編にも出てきます)
今なら完全に18禁ですね。
床や階段の下から男性刑務官がいやらしい目で、階段を上がったり、ハードルをまだぐスッポンポンの女性を見ているシーンが挟まれるんですが、きっと当時の男性観客に「あー、俺も刑務官になりてぇ」って思わせる演出だったんでしょうね。
それ以外にもエロいシーンがたくさんあって、違った意味で昭和中期の娯楽作を実感出来る映画です。
DVDは格安とはいきませんが、そこそこの値段で入手可能です。