「エヴァンゲリオン」のガイナックスの第一回長編アニメ、「オネアミスの翼」(1987製作)。
正直、このブログの趣旨である「僕的に怪しい映画を見てみた!」から外れています。
普通に良いアニメだし、レーザーディスクもDVDも持っていて、何年に一度は定期的に見てます。もっと言えば、好きなシーンだけなら、必ず一年に一度は見てるんです。
そんなアニメが今回4Kリマスターになってブルーレイが発売されるのに合わせて、限定劇場公開されたので、横浜のブルグ13というシネコンまで足を運びました。
ちなみに劇場で見るのは初公開以来35年ぶり。岐阜のロイヤル劇場でした。
(あらすじ)
架空の世界の、架空の国。まだ人類は有人ロケットが夢だった時代。主人公は「将来ロケットを飛ばす」という目的で作られた王立宇宙軍の一員。しかし誰もロケットなんて信じず、軍隊とは名前ばかりのぐーたら集団だった。しかし政治の思惑もあり、実際に有人ロケットを飛ばすことに。
日々適当に生きていた主人公は、街中で宗教のビラを配っている少女と出会ったことで、勢いでパイロットに志願する・・・
まず設定が僕好み。
舞台は歴史や国家体制だけじゃなく、文字も全て架空の世界。
時代的には昭和の30~40年代前半に似ていて、街中にはネオン管の看板とか、路面電車とか、既に初公開当時でさえ「懐かしい~」って思うレトロ感満載。
この架空のレトロ世界やレトロフューチャー(スチームパンク)って、僕は惹かれちゃうんです。「未来世紀ブラジル」(1985製作/1986公開)が好きなのも、同じ架空のレトロ世界だからです。
やっとジェット戦闘機が実用化されたような時代に、人を乗せたロケットを飛ばそうという男たちの話。
これって実話の映画化、名作「ライトスタッフ」(1983製作/1984公開)に似てますが、あの映画のニヒルな男たちの挑戦談じゃないんです。
(チャック・イエーガーの「ガムをくれ」ってセリフにはめっちゃ痺れました!)
このアニメは、日頃からやる気のない主人公と仲間たちが、おじさんたちの野望(?)に乗せられて、手探りでロケットを飛ばす話。
時代設定も50~60年代っぽいので、アメリカの実話(まさに「ライトスタッフ」)を借りてきただけ、と言われればそれまでで、安彦良和さんが「無意味」と酷評するのも分からなくもありません。
でも、そう思わせないアニメだと思うんです。
その一番の要因は、何よりも森本レオさんが演じる主人公。
もうこれに尽きます。
彼の感情を表に出さない、淡々とした演技が、アニメにありがちな熱血だったり、クールだったりする主人公とは全く異質のキャラを生み出してます。
初めて見た時に「こんな主人公ありなのか?」と思いました。
(森本さんの喋りは、機関車トーマスと一緒のノリと言えばそうなんですが)
そんな不思議な主人公だからこそ、ちょっと間違えば青春熱血感動ドラマになりそうなこの映画を熱くなり過ぎないようにしてます。
特に前半のいい加減な男から、後半のロケットで飛ぶことに真剣になっていく変化は見事。
彼でなければ、間違いなく「ライトスタッフの安っぽいコピー」で片付けられてた可能性があります。
あとこの映画をちょっと変わったものにしているのが、ヒロイン。
大丈夫?っていうぐらい宗教にどはまりしているキャラです。
主人公は下心見え見えで、彼女に近づき、話を合わせていくうちに、宇宙に行くという使命感と重ね合わせて、自分も宗教を信じていくんですね。
まぁ、これが世の中で言う洗脳ってやつなんでしょう、きっと。
ちなみに主人公がヒロインを襲っちゃうシーンがあるんです。
でもヒロインに燭台で頭を殴られて未遂に終わるんです。
主人公が目が覚めると、バツが悪そうに彼女に謝るんです。
すると彼女は「私こそごめんないさい。あなたのような立派な人を殴っちゃったりして」って謝るんです!
初公開の時に一緒に見ていた友人が、このシーンを見て「宗教っていいなぁ」と言ってました。
それ完全に間違ってるんですけどね。
純粋に宗教を信じる彼女と接していくうちに、主人公はロケットと飛ばすことにシリアスになっていき、更に信仰も持っていくんですが、その展開が絶妙で、本当に自然に見えるんです。
この映画は「ロケットを飛ばす男たちの話」というのは、実は伏線で森本レオさん演じる主人公の変化(成長?)を見る映画なんじゃないでしょうか。
さて、そんな信心深い彼女ですが、靴を脱いだ時に、たまたま靴底からお金が落ちるシーンがあるんです。これ、とっても意味ありげ。
何故、宗教勧誘のビラを配ってるだけの彼女が生活てきるのか?っていう疑問の答えを、ちょっと垣間見させるシーンじゃないかって思いました。
考えすぎですかね??
話自体ものんびりとした主人公たちの生活から、政治ドラマあり、サスペンスあり、恋愛(?)あり、クライマックスでは戦争と打ち上げが交差します。
軍人が打ち上げ基地にやってきて、戦争が始まるからロケット発射を中止して退避するように言うんですが、主人公が「絶対に俺は上がるんだ!」という一言で、スタッフは打ち上げを決意するんです。
軍人は引き上げながら、部下に「船乗りは船と運命を一緒にするそうだ」と言い、そこから戦闘が始まるシーンになります。
ここから打ち上げカウントダウンと戦闘が交互に描かれ、最後は地球を見下ろす主人公の姿で終わります。このクライマックスからラストまでの一連の流れが僕は好きで、何度も見ちゃいます。
あとこの映画で忘れられないのが、音楽。
音楽監督なので、全曲書いているわけではありませんが、エキゾチックな雰囲気で統一されてます。
やはりその中でも出色は、彼が作曲したメインテーマと、リイクニのテーマ。リイクニっていうのは、ヒロインの名前です。
サントラが廃盤なのが、とっても残念。
今回4Kリマスターのブルーレイボックスセットには、サントラの完全版が収録されてるそうです。
ちなみに坂本龍一さん自身は、このアニメに関わったことを黒歴史のように語られてるようですが、全然そんなことがないぐらい素晴らしい音楽です。
この映画が好きなのは、きっと「オネアミスの翼」という虚構に完全に没入てきる世界を、丁寧に作ってあるからてしょう。
そこに森本レオさんの肩の力が抜けた主人公が、僕らをその世界に連れてってくれます。
今回、改めて映画館で見て、本当にこの映画が好きなんだなぁ、って実感しました。
サブスクではU-NEXTにあります。
DVDは普通に手に入ります。