史実が虚構と入り交じる話って面白いですよね。
歴史上の人物が、実はこんなことをしていた、みたいなSF。アニメの「文豪ストレイ・ドッグ」と似たような系譜なのかな?
「帝都物語」(1988)はまさにそんな一編。
登場人物の大半は歴史上の実在人物。彼らが力を合わせて、世界を転覆させようとする魔人の陰謀を防ごうとする物語は、聞いてるだけでワクワクします。
さて、それを何十年ぶりかに見直してみました!
(あらすじ)
明治45年の東京。実業家、渋沢栄一は、陰陽師の土御門の力を借りて、東京を霊的に守護しようとするが、そこに平将門の霊を呼び覚まし、東京を破壊せんとする魔人・加藤が現れた。平将門の末裔である主人公とその仲間によって、一時は加藤の企みは防がれたように見えたが、加藤に拉致された主人公の妹のお腹には、将来、将門の霊を呼び覚ます元となる加藤の子供が宿っていた・・・
もう設定を読んでワクワクしてたし、コンセプトデザインには「エイリアン」(1979)のH.R.ギーガーが参加してるんです。
期待しちゃいますよね。
でも、映画館を出た時の気持ちは「そんなものかー」
悪くはないけど、何か足りない、そんな感じです。
やっぱり今回見ても、悪くない。
オールスターキャストで、配役もなかなか理にかなってる。
他にも勝新太郎さん、いとうせいこうさんや宍戸錠さん、寺田農さん、寺泉憲さん、桂三枝さんが適材適所的な配役で、存在感を示していて、キャスティングは合格。
個人的には佐野史郎さんの出番がもっと多くても良かったんじゃないかな、というぐらいこの映画に似合ってました。
何よりもこの映画をさらってるのは島田久作さん。
この人の圧倒的な存在感がこの映画のレベルを引き上げてます。
「スターウォーズ」(1977)でも実証されてるように、悪役に圧倒的な強さがなかったり、魅力的じゃないと、対立構図のある映画はダメになります。
「こんな強いやつ、どうやって倒すんだ?」っていう緊張感があるとないとでは引き締まり方が全然違うんですね。
この映画の魔人・加藤は、まさに「スターウォーズ」のダース・ベイダーに匹敵する存在。
嶋田久作さん本人は、暫く「帝都物語の加藤」っていうレッテルを貼られて大変だったと思いますが、無名で終わるより、こういう役に出会うことの方が幸せなんじゃないでしょうか。
今は島田久作さんは、いろんな映画でいろんな役をやってますが、どの映画でも相変わらずの存在感があり、唯一無二に俳優といったところ。
そういう意味では「帝都物語」は嶋田久作という俳優を世に出したという意味でも価値があったんじゃないでしょうか。
反対に、主演の石田純一さんは当時、トレンディドラマで人気絶頂だったんですが、こういう伝奇物は無理があったかな、と。
それなりに頑張ってるし、役になりきろうとしてます。
ただいかんせん、こういう映画に必要な、派手さや(いい意味での)嘘っぽい演技が出来ないんです。
他の俳優が、オーバーアクションとも捉えられるぐらい、歴史上の人物をデフォルメ気味に演じてるのに対し、石田純一さんはあまりにも現代的で、フツー。
歌舞伎の中で一人現代劇をやってる感じです。
それが顕著で出たのが、クライマックス。
魔人・加藤とのバトルなんですが、演技が下手。
トレンディドラマにないシチュエーションは無理なようです・・・
実相寺監督の絵作りはさすがの出来。
スケール感もあるし、こだわりの絵作りが感じられます。
ちょっとはったり強めの話なので、実相寺監督のような「娯楽作で作家性を出す」監督は適材適所だったと思います。
ただ特撮の見せ方には悪い意味で古さを感じました。
全般的に特撮は良いです。
特撮の名作と言われている「ゴジラ」(1954)や「ガメラ」(1965)や「大魔神」(1966)のような「スペクタクルな画像を見せるための特撮」がちゃんと出来ています。今の目で見れば。手作り感満載ですが、当時の「想像の世界を、リアルに見せたい」というこだわりが分かる作り方です。
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ただそんな特撮シーンの中に、何故か時々、昭和50年代の子供向けゴジラ映画や、同じころのTV特撮番組乱造時代のような、工夫が足りず、絵作りが妙に安っぽくなる時があるのが残念。
安っぽくっていうか、見せ方が「爆発見せればいいでしょ?」とか、派手さはあるものの、カメラアングルや構図が安直で、リアリティのない画面になっちゃうんです。
そういうところは、実相寺監督が特撮監督の中野さんに任せてしまったんでしょうか?
地震のシーンでは、昭和のバラエティ番組っぽく「カメラを揺して、地面が揺れてるように見せる」演出をしてるんですが、あまりにも古典過ぎて、失笑してしまうレベルでした。
他にも衣装などで古い昭和のセンスから抜け出せてないところがありますね。
これはスタッフの感覚の方が観客より古臭かったのかも。
この時代は、製作者より海外FSに触れている観客の方がSFマインドが高いケースが多かったのも事実。
「さよならジュピター」(1984)や「ガンヘッド」(1989)なんていい例です。
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ただし「ガンヘッド」や「さよならジュピター」に比べると、この映画では製作者と観客のSFマインドのギャップは小さいと思います。
製作者側が、自己満足ではなく、本気で観客が求めている目線のSFを作ろうとする気持ちがヒシヒシと伝わります。
それにスター俳優以外にも、お金をかけるべきところにちゃんとかけてる感じがします。
特に脚本は、欧米の映画に慣れている観客のレベルに合わせよう工夫したんじゃないでしょうか。
ただ残念なのは、詰め込み過ぎ。
原作が全10巻+外伝3冊という長編。
この作品は本編の最初の4巻の映画化だとか。
だからどうしても、話が駆け足になったり、説明足らずになって、観客が「???」となりがちです。
大筋が比較的シンプルな魔人VS歴史上の人物なので、話的に迷子になることはありませんが、「何でこんな儀式してるんだっけ?」「ここ人、誰?」みたいなところが多々あります。
(もともと原作者の荒俣宏さんが博覧強記の人なので、背景設定や裏ネタ、小ネタがとてつもなくあるんでしょうけど)
更に歴史伝奇ロマンということで、歴史上の人物がいっぱい出てくるんですが、それを使い切れてません。
渋沢栄一、寺田寅彦、泉鏡花ぐらいは知ってたのですが、他の実在の人物は見終わった後にパンフレットを読まないと分かりませんでした。
見ている時に分かったら、何倍も面白かったと思います。
今回見終わっても、「なんだかなー」っていう気持ちはなくなりました。
でも満足したかって言われると「ビミョー」。
今回の感想は
消化不良
でしょうかね。
素材は良いけど上手に料理し損ねて、薄味になっちゃいました、みたいな感覚です。
ただこの映画や、「魔界転生」(1981/沢田研二主演版)みたいに日本らしい独自のSFを作った方が、下手に欧米の真似をするより断然良い映画が作れるんじゃないかって期待させてくれる作品でした。
現在、DVDは出ていますが、お手頃価格とはいかないようです。