今回レビューするのは「エンゼル・ハート」(1987)。
監督のアラン・パーカー、主演のミッキー・ローク共にキャリアのピーク時に作られた作品です。
原作の話題性もあって、公開当時はそれなりに話題を集めてました。
最近はすっかり忘れられているようなので、今回見直してみます。
(あらすじ)
1955年のNY。私立探偵ハリーの元に、第二次世界大戦から神経症となって帰国したものの、行方不明となった兵隊で元歌手のジョニーを探して欲しいという依頼が来る。ハリーが調査を始めると、彼が会った人間が次々と惨殺されていくことに・・・
実は公開当時に劇場で見れていません。
監督・脚本は「ミッドナイト・エクスプレス(1978)」で注目され、その後「フェーム(1980)」「ピンク・フロイド ザ・ウォール(1982)」「バーディ(1984)」と良作を連発していたアラン・パーカー。この映画作成は、まさに脂の乗り切った時期です。
主演のミッキー・ロークも「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン(1985)」「ナインハーフ(1986)」とヒットを飛ばし、当時はちょい悪オヤジ的なセクシー俳優ともてはやされていました。
僕らの世代は「ミッキー・ローク=カッコいい」っていうイメージの人が多いんじゃないでしょうか。
最近の怪優ぶりしか知らない人には全く想像できないですよね。
そんな旬な二人が、「悪魔のバイブル」と呼ばれ、アメリカで廃刊運動が起こった原作を映画化したのがこの作品。
そりゃ当時は話題になります。
そう言えば何で「エンジェル」じゃなくて「エンゼル」なんでしょうね。
森永のお菓子みたいです。
ジャンルとしてはホラーになるのかもしれませんが、全般的にはミステリーの要素が強い映画です。
人探しを依頼された、しがない探偵が、手懸りを追う先々で情報を持っている相手が殺されていく。本当の依頼はただの人探しではなく、大きな裏があるのではないか・・・という筋立てはハードボイルド小説の鉄板モデル。
このプロットで一番有名なのは、レイモンド・チャンドラーの「さらば愛しき女よ」です。(1975年の映画版はなかなか良いです)
そんなワケでこの映画もハードボイルド的なノリで進んでいきます。
まずハードボイルドって、主人公が冷めたキャラじゃないといけないじゃないですか。
この映画の主人公も、よれて、イマイチやる気のない、どことなく冴えない探偵。
いつも淡々と、捻じれたタバコを咥えて、偽の身分証明書を見せ、相手から情報を引き出そうとする。
ミッキー・ロークが、このハードボイルドのお手本のような探偵を、ごく自然に演じてるんです。
まさに適役。
この冷めた探偵だからこそ、ラストに真実が分かり、一気に感情を爆発させるクライマックスの絶望感がよく出てたんだと思います。
ちなみにこの映画はホラーですが、純粋に彼のハードボイルド探偵(刑事)は「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」で見ることが出来ます。
こちらもお勧めです。
彼に仕事を依頼する謎の男は、超名優ロバート・デ・ニーロ。
実は全てを知っていて、主人公をもてあそぶように真実へと導く男を上手に演じていますが、彼の場合、どんな映画でも、どんな役でも上手に演じるので驚きはないです。
あー、デ・ニーロだー、さすがだなぁ、というレベル。
多分、7割ぐらいの実力でやってるんじゃないんでしょうかね(笑)
あとシャーロット・ランプリングっていう有名女優さんが出てます。
重要な役ではあるんですが、意外にあっけなく殺されてしまうので、なんか勿体ない気がしました。
この映画のポイントの一つが、話の後半の舞台がニューオリンズということ。
原作はずっとニューヨークが舞台のようですが、映画化にあたりアラン・パーカーがニューオリンズに変えてるんです。
(アラン・パーカーは脚本も担当)
「キャットピープル(1982)」の時にも書きましたが、アメリカの南部はブードゥー教や迷信などの土着文化が強い地域。
まさにニューオリンズはクライマックスの「怪談話」に向かっていくにはうってつけの場所。この変更はナイスアイディアでした。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
実際に映画の中でも、ニューオリンズの雰囲気やブードゥー教が不安感を引き立てるのにとても効果的でした。
あまりに物語に「ニューオリンズ」がしっくり溶け込んでいるので、原作より映画の方が面白いんじゃなかろうかと思いました。
さて、話はクライマックスの直前まで「探しているジョニーには何か重大な秘密があって、それを知られたくない人間が、先手を打ってジョニーのことを知る人間を次々と殺していく事件」という、普通の探偵物として進んでいきます。
殺人シーンがややドギツイ目ですが、「羊たちの沈黙(1991)」に近いノリなので、ミステリー&ハードボイルドの雰囲気を壊すことはありません。
前情報がなければ、絶対にホラーなんて思わないはずです。
そんな雰囲気から一転してホラーな展開になるのは、真実が分かるラスト20分。
ホラーと言っても怪物や無敵の殺人鬼は出てきません。
ただ、この話が最初から「怪談話」だったということが分かるんです。
ここで観客は、普通の探偵ものに見えていたいろいろな場面が、実は別の意味のあるシーンだったんだと知るんです。
この展開は「シックスセンス」(1999)に似てますね。
この構成は上手いです。
ただ残念なのが、謎解きで伏線らしきものが全部回収されているように見えないこと。
メインのネタはちゃんと説明されるので、「この映画、ワケがわからない」ということはありません。
反面、「何故、記憶を失ったジョニーがブロードウェイに捨てられたのか」等すっきりと理解出来ない部分が残りました。
今回見直しても、そこだけは丁寧さに欠けるなぁ、という感想は変わりませんでした。
この映画のもう一つの見どころは、丁寧に作られた映像です。
まさに1955年のアメリカのハードボイルドの雰囲気に浸れます。
乱雑な探偵の事務所や主人公のよれよれの恰好、古びた街並み等といったハードボイルドの教科書のような「絵」を、アラン・パーカー監督は全く手を抜くことなく作り上げてるんですよ。
この監督って、何気ないスタイリッシュな絵作りが上手く、この映画の予告編を見るだけでもワクワクさせられました。
また音楽もアンニュイなジャズがベースで、なかなか良いんです。
夜中に間接照明の部屋で流す音楽って感じ。
CDは廃盤ですが、サブスクでは聞けます。
役者、演出、話全てが良く出来た作品なので、このまま忘れ去られていくのは惜しいです。
この映画はサブスク(Nextflix、Prime Video、U-Next)にはなかったので、DVDレンタル屋で借りました。
権利関係でサブスクでは配信出来ないんでしょうか。
ちょっと高めですが、Blu-Rayは手に入るようです。