80年代はホラー/スプラッター映画が流行りました。その中からカルト・シリーズが幾つも生まれ、中には今でも続いてるものもあります。
「ハロウィン」「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」などなど。
どれもマイケル・マイヤーズだったり、ジェイソンたったり、フレディ・クルーガーといったカリスマ殺人鬼が君臨してます。
さて、そんな中でも異彩を放ってるのが、今回レビューする「ヘル・レイザー」(1987)。
この映画と言えばピンヘッドに代表される異形の魔導士たち。
しかし他のホラースターと違うのは、彼らは残酷に人を殺しますが、殺人鬼てはないこと。
更に究極的には悪人でもありません。
そんな他とは一線を画すホラー映画をレビューします!
(あらすじ)
部屋の中で男が手に入れたパズルボックスを変形させると、周りの景色が一変、異形の者たちが現れ、「究極の快楽をもたらす」と言い、彼を無残にバラバラにしてしまう・・・
ある空き家に夫婦が引っ越してくる。それは夫の生家だった。彼には兄がいたが、放蕩もので、禄でもない男だと語る。実は過去に妻は彼の兄と不倫をしていた。そしてその兄こそがパスルボックスでバラバラにされた男だった・・・
当たり前ですが、B級映画です。
でも、かなりシッカリとした作りです。
特殊効果の部分は手描きのアニメを使ったりして低予算であることが伺えますが、話、撮影、雰囲気作りと、かなり考えられてます。
少なくとも安易に勢いだけで作られたモノではありません。
中身がスカスカだった「エルム街の悪夢」(1984)とは全然違います。
話自体は意外とシンプル。
でもこの手のホラー映画に多い、「残酷シーンは多いけど、話らしい話がない」というシンプルさではありません。
「残酷シーンは多いけど、話らしい話がない」映画を見た人は「地獄の門」(1980)をお勧めします。
僕は二度と見ませんけど。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
基本線は魔導士たち(別名セノバイト)にバラバラにされた、どーしよもない男(恋人)を復活させるために、外で男を誘しては殺し続ける女の話。
そこに旦那や娘が絡んできて、ちょっとサスペンス仕立てにしてるのがみそ。
まぁ、バラバラにされた男もたいがいな感じですが、いくら好きでも、「もっと血と肉があれば俺は人間の姿に復活出来る」っていう血みどろの骸骨の言葉を信じて、罪もない男を次々と殺すようになる女の方もかなりヤバいです。
とにかく、この軸となる話がシンプルだけどブレずにしっかりしてるので、映画自体は分かり易く観やすいです。
そういう良い意味でのシンプルさです。
わけの分からないイメージシーンや回収されない伏線や、意味ありげで何も意味がなかったシーンもないのもGoodです。(ただし最後にパズルボックスを炎の中から拾う老人は意味ありげでしたが)
そういう無駄なものが見たい人は「地獄の門」を・・・(以下自粛)
魔導士以外の俳優さんは正直あまり印象に残りませんが、適材適所っていう感じで、違和感はありません。
ただ恋人のために男を誘惑して殺しまくる中年女性が、そこそこ綺麗なんですが、男がホイホイついてくるほどの艶はないのが残念。
ちょっと違うんですよね。
あと、この女性の義理の娘(大学生)がヒロイン的に立ち回るんです。
劇中でボーイフレンドが出来て、謎を暴こうとする彼女についてくるんです。彼がヒロインを助けるのかと思いきや、ほとんど活躍せずに終了。
同じく「エルム街の悪夢」のヒロインのボーイフレンドと同じ役立たずでした。
ちなみに「エルム街の悪夢」のヒロインのボーイフレンドは無名時代のジョニー・デップです。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
(「エルム街の悪夢」や「地獄の門」を意図的にディスってるわけではありません。たまたまです)
さて、この程よさは、原作者(クライヴ・バーガー)がそのまま脚本と監督をやってるからかもしれません。
ちなみにクライヴ・バーガーはホラー&スプラッター小説の大家で、この映画をきかっけに小説だけでなく、多くのホラー映画に参画してます。
日本の監督・北村龍平さんのハリウッド進出第一作「ミッドナイト・ミートトレイン」(2008)の原作と製作総指揮を担当していました。
クライマックスは魔道士たちがバラバラから復活した男と女に罰を下して、観客も含めてみんなすっきり。
ある意味、水戸黄門や仕置き人に近い作りです。
(魔導士を「地獄の仕置き人」って表現してるコメントを読んだ時は、「うまいなぁ」と思いました。)
雰囲気作りもかなり上手いです。
オープニングから中東っぽいコーヒーショップで、怪しげな<パズルボックス>の売買をするシーンからゾクゾクします。
デザイン(魔道士が現れると、天井から降りてくる血のしたたるチェーンなど)や撮影、演出(魔道士が現れる時に、テレビにザラついた謎の花の映像が映り、それがノイズで歪んでいく等)かなり考え抜かれてます。
そして魔道士たちが最高。
彼らは悪でも正義の使者でもなく、究極の快楽(苦痛)をもたらす者。
「究極の快楽は究極の苦痛である」というポリシーに基づいて、パズルボックスを開けたものに、究極の快楽=究極の苦痛を与えてるだけ、っていうのがいいです。
そして常に冷静な佇まい。
「お前の個人的な事情なんて知るか」的な態度で、一方的に自分の価値観を押し付けてくる姿がいいですね。
こうやって書くと、昭和のオヤジっぽいですけど、それよりはカッコいいです。
今やホラー映画のアイコンの一つとなったピンヘッドを始め、禍々しく、異形の佇まいたっぷりの魔導士たちは、ホラー好きなら痺れる存在です。
このデザインは、きっとゲームの「サイレンヒル」シリーズ等のヴィジュアルデザインにも影響を与えたんじゃないでしょうか。
(反対に10作目の「ヘル・レイザー:ジャッジメント」(2018)になると、「サイレンヒル」から影響を受けたようなデザインや背景が出てきますけど)
ちなみに宣伝でも魔導士(ピンヘッド)が全面に出てますが、実は登場するのはほぼ最初と最後だけでが、リーダーのピンヘッドを始め、他を寄せ付けない存在感があります。
見た人は彼らを忘れれないでしょう。
(↓のポスターに出ているのピンヘッド)
こういうキャラが立ちまくった魔導士を、映画の中で安売りしなかったのが、成功の秘訣だったのかもしれません。
この魔導士もいいんですが、個人的にはパズルボックスが好きです。
レプリカが売っているので、ちょっと気になっています。
(知り合いのマニアから、パズルボックスのレプリカはパチ物も多いようなので、要注意と言われました。商品説明では映画に出てくるパズルボックスみたいに変形するようなことが書いてあっても、実際に届いた商品は変形しないただの箱だったりするようです)
残念なところは、どうしても安っぽさが散見されるところ。
冒頭に書いたみたいにパズルボックスにまとわりつく光や、魔道士が消える時に体を伝わる光が手描きのアニメーションだったりするんですよ。
予算があれば、ILM(ジョージ・ルーカスが設立した特撮工房)に頼んで、凄い映像を見せてくれたかもしれません。
「ヘル・レイザー」は10作まで続き、その後はリブート作品も出来ていて、今も現役の映画です。
10作目の「ヘル・レイザー:ジャッジメント」では、美術・特殊効果ともにかなり高品質になっていました。
「サイレント・ヒル」が好きな人なら、魔導士の登場しているシーンは一見の価値があります。
僕は全部を見ているわけではないのですが、ちゃんと他の作品は一作目の良さは引き継がれているのてしょうか?「ヘル・レイザー:ジャッジメント」はミステリー仕立てで、それなりに面白かったのですが・・・
一作目だけ単品のDVDやBlu-rayはもう出ていないようです。
現在はシリーズの他の作品とセット販売になっています。(そこそこいい値段です)
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