前回は学生映画みたいな「アタック・オブ・ザ・キラートマト」のことを書きましたが、今回は本当の学生映画「ダークスター」(1974製作/1981日本公開?)です。
(あらすじ)
宇宙の彼方で、人類進出の邪魔となる惑星を破壊する任務を負って航行する宇宙船ダークスター号。しかし船長は死に、変な宇宙生物が徘徊。自立型コンピューター搭載の惑星破壊ミサイルは自我に目覚め、自爆しようとしていた・・・
この映画の製作は1974年。「スターウォーズ」より前です。
南カリフォルニア大学の学生が作った映画です。
何でそんな学生映画が有名かというと、スタッフが凄いから。
当時は無名でしたが、監督が「ハロウィン」のジョン・カーペンター、脚本が「エイリアン」のダン・オバノン、特撮は「スターウォーズ」のロン・コッブ、特撮用のモデル作りは「未知との遭遇」のグレッグ・ジーンと、この映画の後にSF界を代表することになる人材のてんこ盛りでした。
ただし、やっぱり学生映画っていうことで、「アタック・オブ・ザ・キラートマト」よりも、更に謎の存在でした。
この作品を一気にオタクに知らしめたのは、当時(1970年代後半)からSF映画の評論で名を馳せた映画評論家の中子真治さんでした。
まず彼はスターログ日本語版で「ダークスター」っていう凄い映画があると布教します。
そして1980年にA4サイズの447ページもある図鑑のような「超SF映画」という本を出版。値段は当時破格の7800円
この本は1897年から1980年までのSF映画(ホラーやファンタジーも含む)900本のデータと概要が載っています。単純計算で1ページに2本の映画(1本で0.5ページ)について書かれています。これ、重要な数字なんで覚えておいて下さい。
当然、「ダークスター」も載っているんですが、なんと4ページ使って解説してるんですよ。平均1本で0.5ページなのに。(ちなみに「スターウォーズ」は3ページ)
他の映画は写真、大体のキャストとスタッフ、大まかなあらすじと制作裏話で構成されてるんですが、「ダークスター」なんて劇中で使われてるカントリーソングの楽譜まで載ってるんですよ。中子さん、どんだけこの映画好きなの?
こうなると中学生のヲタク心にも火が付くわけですよ。
どうしても見たいモードにシフトアップ。脳裏にその名前が刻まれます。
しかし「アタック・オブ・ザ・キラートマト」の時にも書いたように、この頃はレンタルビデオ屋どころか、家庭にビデオデッキというものが普及していない時代。
幾らSF映画ブームの時代とは言え、こんな映画が岐阜や名古屋で劇場公開されたり、地上波で放映される可能性はありません。(注1)
見たいなぁ、見たいなぁ、と思っているうちに高校生になり、アニメやヘビーメタル、女の子へと心が奪われるようになると、超ドマイナーなこの映画のことは「そのうち見れたらいいなー」という軽い願望レベルに格下げになっていました。
そんな映画が突如目の前に現れたのは1986年。
第二回東京国際ファンタスティック映画祭でのことでした。
第一回に参加しそびれた僕は、SFファンとしては参加しとかなきゃいかんだろうと思い、この年はがっつり参加することを決意。
見たい映画の前売りを押さえるために、ファンタスティック映画祭のチラシの裏に印刷された上映予定作品を物色していた時のことです。
なんとそこには「ダークスター」の文字が。
これはあの「ダークスター」なのか?
同名異映画じゃないのか?(注2)
スタッフをよく見ろ、やっぱりあの映画だ!
これは見るしかねぇ!
昔の熱い思いが沸々と復活し、躊躇なく前売りをゲット。
そして当日、深夜の渋谷。
同じ匂いのする人たちにまじって映画館に入ります。
場内は超満席。
いやー、最初から最後まで拍手と笑いの連続でした。
観客全員が一体となって映画を楽しんだのは、後にも先のもこの時だけです。
こんなにめっちゃ面白い映画があったんだー。中子さん、あなたの言うことは正しかったよ!!!そんな気持ちでした。
時は流れ、現代。
コロナ禍でリモートワークになり、自由な時間は増えましたが、外出もままならないので、連日一人4畳半の仕事部屋でAMAZONのPRIME VIDEOで日々映画を見ていました。
ある日、新作欄に「DARK STAR」の文字が。
え?こんなものがサブスクの無制限視聴の範囲で見れちゃうの?
まるで高校の時に付き合ってた女の子が、あの通り向こうの本屋で働いてるっていうのを知った、そんな感じでしょうか?
躊躇はありません。
あの頃は楽しかったなぁ、今でも昔みたいに優しく笑いかけてくれるのを見たいなぁ・・・そんな思いで、一人、仕事部屋で視聴してみました。
月並みな感想を言っていいですか?
「美しい思い出は、思い出のままにしておくのが一番だった」
学生映画なので少ない予算の中、安っぽくならないようにかなり工夫はされています。
話はSFブラックコメディなんですが、さすがにSF脚本家として一目を置かれる存在だったダン・オバノンだけあって、「アタック・オブ・ザ・キラートマト」のような笑いのスベリ感は少ないですし、SFファンならニヤリとするようなネタや設定がいたるところにあります。
展開もスピーディとかスリリングとは無縁ですが、タルみは少なく、テンポも悪くありません。
それでも、やっぱり自主制作映画。
寒くはないけど、家でサブスクやレンタルで見るのが妥当。
他に、もっと満足出来る時間を過ごせるメジャー映画はいっぱいあります。
反対に1900円も出して、ポツンと一人で、観客もまばらな劇場で見たら、ちょっとやっちまった感が出てしまうことでしょう。
結局、86年の思い出は、この映画を熱望していたマニアが集結した劇場=ハレの場だからこそ作られた美しいものであり、「ハレの場」ではない仕事部屋では、スッピンになってしまうのです。
SFマニアとしては、見ておいて良かったとは思います。
ああいうアイディア面白いし、お金がない映画は嫌いじゃないです。
でもこの映画を他人に勧めるのはしんどいです。
例え相手が一般人じゃなく、SF映画ファンだとしても、琴線に触れるかどうかわからないからです。
だっていいなぁ、と思うところが、あまりにもマニアックなところばっかりだから。
でもこういうこそ、まさにカルト映画っていうんでしょうね。
(注1)wiki等では日本公開は1981年になってますが、これは武蔵野館みたいなカルト映画館が単館上映したんでしょうか?知っている方がいたら教えて下さい
(注2)今は同名異映画があります。エイリアンのデザインをしたスイスの幻想画家H.R.ギーガーのドキュメンタリー映画です。ダン・オバノンがエイリアンの脚本を書いていたので、妙な縁を感じます。(原題もちゃんと同じ「DARK STAR」です)