ドイツ軍がカッコ良く描かれてる戦争映画と言えば、まず思い浮かぶのが「鷲は舞いおりた」(1977)。
優秀で男気のある隊長に率いられ、英国首相チャーチル誘拐という特殊任務を実行しようとするドイツ空挺部隊の話。
初めて見たのは初公開時に、親に連れられて岐阜の自由劇場という、半地下の小さな映画館で見ました。
その時は、話をそんなに理解できなかったけど、後半のドイツ空挺部隊の、立派な立ち居振舞いがとっても印象的でした。
今回はそんな戦争映画の佳作をレビューします!
(あらすじ)
第二次世界大戦下、戦況不利なドイツでヒトラーの御前会議が行われ、そこで「チャーチル誘拐」作戦が遡上に上がる。ヒトラーは興味を持ち、作戦を検討するように命令する。分析の命令を受けたラードル大佐は、好条件が重なったことで、この作戦は実行可能だとする結論に辿り着き、懐疑的な上官と対立する。しかしそこに親衛隊のヒムラー長官が現れ、ヒトラーの署名入りの作戦命令書をラードル大佐に渡す。
実行部隊には、数々の武勲を立てながらも、収容所送りになるユダヤ人の少女を助けた罪で、階級をはく奪され、田舎の基地で自殺的な作戦に従事させられているシュタイナー大佐率いる空挺部隊が選ばれるのであった・・・
数年前にも一度見直してるんですが、今回、改めて見直すと、この映画には主人公が3人いるんですね。
一人はマイケル・ケイン演じる作戦を実行するシュタイナー大佐。部下思いの人格者で、超優秀なリーダー。文句無しにカッコいいです。
もう一人は、この無謀な作戦を実行可能として立案するラードル大佐。演じるのはロバート・デュバル。僕らの世代だと「地獄の黙示録」(1979)でヘリコプター攻撃部隊を率いる狂気のキルゴア大佐役が印象的です。
あの凄まじいヘリコプター攻撃シーンで流されるワーグナーのオペラ「ワルキューレの騎行」にハマった同世代は多かったんじゃないでしょうか。
ここではキルゴア大佐と180度真逆の、沈着冷静で、情も少しある作戦立案者を演じてます。
最後の一人は、ドイツ軍を支援するアイルランド人デヴリン。
彼はナチス親派というより、アイルランド独立を目指す反英国のテロリストで、ナチスとは同じ英国を敵同士とする仲間(敵の敵は味方)という立場。
しかめ面をした登場人物が多い中で、唯一常に軽口をたたくような飄々とした人物で、息苦しくなりがちな映画の中でスパイスのような存在でした。
口癖のように「叔父さんから教えてもらったんだけど」と言って、ボクシングで相手を倒したり、襲ってくる犬を口笛で身振りで手玉に取ったり、とユーモアのある悪のヒーローぶりが最高です。
演じるのは、先日亡くなった名優ドナルド・サザーランド。
名優っていうより、怪優ですね。
彼が演じたどの役も、一筋縄ではいかないキャラばかり。
今回もアイルランド人になりきり(これが今見ると、メイクも含めて典型的なアイリッシュっぽい!)、ストイックなシュタイナー大佐と対局にある人物としてこの作戦を側面サポートしていきます。
この映画で一番魅力的なキャラはこのデヴリンかもしれません。
こういう役を見ると、息子(テレビシリーズ「24」のキーファー・サザーランド)は、父親を抜くのは大変だなぁ、って思いました。まぁ、父親が偉大過ぎるんでしょうけど。
この映画は「戦争映画」に分類されますが、派手な戦闘シーンは終盤のみ。
寧ろ、隠密作戦の準備と実行という序盤から中盤にかけての展開は、スパイ映画のようです。
この映画、作戦を実行するシュタイナー大佐役のマイケル・ケインが全面に出てますが、前半部分の主役はラードル大佐とデヴリン。
作戦が実行される中盤まではランドール大佐はヒムラー(ドナルド・プレザンスが本当に憎々しげに演じてます!)の口車に乗って、無謀な作戦を立案し、準備を進めていく様が描かれます。
そしてヒトラーからの勅命が、実はヒムラーによるでっち上げ(と思われる)だと分かりながらも、粛々と作戦を指揮していく様は、まさに取り憑かれた男でした。
協力者として選ばれたデヴリンは、ドイツ軍人に殴られて、酒場の外に掘り出されても、激高もせず、「仕方ないな」という程度に軽く流してしまうような男。
彼はベルリンからパラシュートで英国に潜入し、地元の工作員に手引きされて、チャーチルが療養に来る小さな村の沼地管理人になります。そこで粛々と潜入部隊が来た時のための準備を行いつつ、村の少女に手を出したりします。
この村の少女を演じるのはジェニー・アガター。
19歳という設定ですが、ちょっと無理がない?と思って、この時の彼女の年齢を調べたら24歳でした。19歳を演じるのはギリギリセーフな年なんでしょうか?
ジェニー・アガターって鼻が上を向いてるんですよ。
そこが気になるんですけど、それでもチャーミングに見えるのが魅力かも。
若い時に出演した知名度のある映画はこれ以外だと「2300年未来への旅」(1976)、「狼男アメリカン」(1981)ぐらいと少な目。
それでも見れば印象に残る女優さんです。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
終盤の主役は勿論、空挺部隊をそれを率いるシュタイナー大佐。
彼らは亡命ポーランド軍として落下傘降下し、その村で演習を行うという名目で駐留します。
彼はこの作戦に参加する時に一つの条件を出します。
それはポーランド軍に偽装しても、中にドイツ軍の制服を着ること。
もしポーランド軍の服しか着ていなければ、敵に捕まった時にスパイ扱いになってしまうんです。
でも自分たちはスパイではなくドイツ軍人だ、という気概ですね。
そしてこれが悲劇を生むんですが・・・
ドイツ軍だと発覚し、近くに駐留していたアメリカ軍と戦闘に。
その時は部隊全員がポーランド軍の服装を脱ぎ捨て、ドイツ軍人として戦うワケです。
交渉にやってきたアメリカ軍の大尉が「降伏してください」と言うと「人質がいる」と答えるシュタイナー大佐。
「女子供を人質に取るんですか?」と問われると「それはないな」と言って、シュタイナー大佐は人質を全員解放します。
そして最後にアメリカ軍大尉に「名誉の死なんて無意味です」と再度降伏を促されますが、「今のところ死ぬつもりはないが、死ぬ場所は自分にまかせてくれ」と返答するカコ良さ。
痺れます。
(ちょっと中二病っぽいですけで)
ちなみにこのシーンでは、教会の牧師が信頼していたデヴリンがドイツのスパイだと分かり、彼に殴りかかります。しかしデヴリンは余裕で彼を殴り倒し、ニヤニヤと笑ってるんです。こう不気味な悪者ぶりは、ドナルド・サザーランドの真骨頂です。
ラストは史実通り、チャーチル首相は誘拐も暗殺もされず作戦は失敗。
空挺部隊は全滅、作戦指揮の執ったラードル大佐は「独断で作戦を行った」として処刑されます。
スパイ映画っぽい前半も、戦争映画らしい後半も、それぞれ完成度が高くて楽しました。
主要人物が3人いることで、話はいろいろなエピソードが出てきますが、余計な部分はなく、全てがチャーチル誘拐作戦を軸に進んでいくので混乱することもなく。勿論飽きることもありません。
演出もダレるところがなく、映画に硬質な印象を持たせているのは、男臭い娯楽作を得意としたジョン。スタージェス監督の手腕でしょう。(この作品が彼の遺作となりました)
そしてこの映画の音楽は戦争映画の音楽の中でトップ3の一つだと思ってます。
カッコ良さだけでなく、この作戦に従事した人間たちの悲哀も表現されてるからです。
音楽は名匠ラロ・シフリン。
「ブリット」(1968)や「燃えよドラゴン」(1973)が有名で、アカデミー賞に6回ノミネートされてます。(残念ながら受賞はなし)
彼の仕事で一番有名なのはTV「スパイ大作戦」のテーマかもしれません。
「戦争映画」といっても手に汗を握る大規模な戦闘シーンがバンバン出てくるわけではなくので、そういうのを期待するとガッカリするかも。
「鷲は舞いおりた」は、無謀な作戦に従事した、高潔なドイツ軍人たちの物語と言えます。
銃をガンガンぶっ放して、敵をバリバリ倒すだけがカッコイイ男ではないことを教えてくれる映画です。
娯楽作の作りとしては、ちょっと古めかしい70年代的なところもありますが、見るチャンスがあればお勧めします。
普通に映画が好きなら楽しめると思います。
そう言えばこの映画にはジャック・ヒギンズ作の原作があるんですが、続編「鷲は飛び立った」があります。
今度は問えらえられたシュタイナー大佐を救出する話だそうです。
(僕は未読)
新品のDVDは入手困難なようですが、Blu-rayは手頃な値段で購入できるようです。
↓ もし面白かったらクリックをお願いします!