「カリギュラ」(1980)
僕と同世代(50代)の人には、「エマニュエル夫人」(1974)と共にタイトルだけが頭にこびりついてる映画ではないでしょうか。
ローマの残虐王カリギュラを描いた映画。
出演者も有名俳優が揃い、有名脚本家がシナリオを書いてます。
それだけ見れば正当な歴史超大作ですよね?
でも実際はハードなエロ映画だったんです。
(あらすじ)
ローマの若き皇子カリギュラは、暴政をつくす皇帝で祖父のティベリウスを殺害し、皇帝の座につく。最初は庶民の人気を得るが、徐々に狂気の世界へと入っていく・・・
当時、日本では「フレッシュゴードン」(1974)同様にエロシーンをカット・編集して公開されてます。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
「エマニエル夫人」が公開された時のように、メディアでは連日この映画のことを取り上げるわけですよ。
いやでも当時中学生の僕らはそういう情報を目にして、ドキドキしてたわけです。
でも確か成人映画指定(18禁)だったと記憶しています。
例え18禁じゃなかったとしても、全国の99%の中学生は劇場に足を運ぶ勇気はなかったハズ。僕もリアルタイムでは見ていません。
大人になったら、絶対に見てやろう!
「エマニエル夫人」の時と同様に大勢の中学生が誓いを立てました。
僕もその一人です。
そんなわけで、僕らの世代の頭の中には、この映画の名前が40年間ずーっとどこかに残ってるんです。
トラウマなんでしょうか。
まぁ、大半の人は「ああ、そんな映画あったねぇ」になっちゃってる気もしますが。
さて、最近、このブログの本筋から外れて、意外に真面目な映画レビューが続いていたので、軌道修正(?)を図るべく、意を決して(?)この映画をレンタルで借りてみました。画像はかなり悪いです。
(当然、サブスクのAmazon Prime、Netflix、U-Nextにはありませんでした。ちなみに新品のDVDは入手出来ません。)
上映時間は2時間半。
このDVDは日本公開時の編集版ではなく、オリジナル版(米国公開版)だと思います。
この手の映画にしてはかなり長いです。
ただ見終わった感想は「あれ?意外に普通の映画に寄ってるかも」。(普通の映画、という意味ではありません)
本筋は意外なほど時代劇していることを発見しました。
脚本のゴア・ヴィダルは「ベン・ハー」(1959)や「パリは燃えているか」(1966)といった正統派大作の脚本家。小説家としても1960年代に性転換を扱った小説「マイラ」を書いたりする先鋭的な作風で有名です。この映画には適った人選ですね。
この映画のテーマは「権力の腐敗」。
小心者のカリギュラが権力を手にしたことから、異常性と凶暴性が増していき、権力者として腐敗していく様を描いてます。
狂気に陥る王を描いているって点では、ビスコンティの文芸大作「ルードヴィッヒ 神々の黄昏」(1972)に通じるものがあるかも
(ビスコンティ監督がめっちゃ怒りそう)
カリギュラを演じるのはマルカム・マクダウエル。
「時計仕掛けのオレンジ」(1971)のアレックスを演じた彼です。
そしてこの映画のカリギュラはアレックスそのまま。
この配役は神懸ってます。
カリギュラの横暴さは、「時計仕掛けのオレンジ」で言うところのウルトラバイオレンスが古代ローマで繰り広げられてる感じ。
カリギュラが「雨に唄えば」を口ずさんだり、BGMでベートーベンの第九が流れても違和感ないでしょう。
マルカム・マクダウェル、ハマりすぎ。
先代の皇帝を演じるのはピーター・オトゥール。
名作「アラビアのロレンス」(1962)の主人公を演じた名優ですね。
この人も狂気を演じるのがハマってますが、当時は本当にアル中でヘロヘロだったらしいです。
他にもジョン・ギールグット(ナイトの称号を持ってます)やヘレン・ミレンといった名だたる俳優が出演してます。
映画では画面に出てくる人の半分ぐらいは裸。
でも当時のローマ帝国はそもそも薄着だし、奴隷や庶民はほぼ裸も同然だっただろうから、意外に「歴史的考証からしたら、正しいのかも」と極端にヘンだとは感じませんでした。
あれ?それは私がおかしい?
さて演出ですが、狂気を増していくカリギュラを描くのに、過激な描写を使うこと自体は「アリ」です。
そうだとしても、やはりこの映画のエロシーンは凄いです。
よくこのDVDをアダルトコーナーじゃなくて、セクシー映画として一般のコーナーに置いていて大丈夫?、と心配になるぐらい。
お色気映画なんてレベルじゃないです。
完全にAV。
「フレッシュゴードン」が永井豪先生の「ハレンチ学園」のような青年誌に載ってるエッチとお笑いのコメディマンガなのに対し、「カリギュラ」は大人向けのエロ本に載っているリアルな筋立てのエロ劇画の世界です。
まるで「フレッシュゴードン」に対して「子供の遊びじゃなんだぜ?」とイキってるように見えます。
更にエロシーンの1/3ぐらいは、アブノーマルな世界。
まさに悪魔の宴的な雰囲気タップリで、エロさよりも、おぞましさを感じる人が大半なんじゃないでしょうか。
wikipediaによれば、製作者(有名な男性雑誌「ペントハウス」の社長)が、あとからハードなエロシーンを撮影し、出演者に黙って加えたらしいです。
事前情報としてこのエピソードを知っていたので、そういう目で確認すると、確かに上手にエロシーンを混ぜてあるんです。
まるで主人公たちがエロに参加しているように見えました。
ここまで映画のテイストを変えられる、やっぱり編集ってすごいですね。
お陰で話を改変された脚本のゴダ・ヴィアルはクレジットから名前を外せと訴え、マルカム・マクダウェルは「鷹を見ているシーンだったのに、編集で乱交を見ているシーンになってた!」と怒ったそうです。
でも一言言わせてもらえれば、マルコム・マクダウェルや他の主要な出演者たちだって、本人たちが絡んでエロいことをやってるシーンも多いんですよ。
エロ映画と知ってたら出なかった、という話をしてたみたいですが、その言い訳はちょっとどうなの?と思いましたね。
素直に「お金が良かったんで、出ました」という方が潔いかと。
今までの見てきたB級映画と比べれば、筋や展開、演出も一定水準を超えてるし、お金もかかってます。僕が偏愛するB級ホラー・SF映画のように、「おいおい」と苦笑いする安っぽさはありません。(別の意味で「おいおい」ですが)
不必要な過剰エロシーンを程よく取り除いて、1時間40分ぐらいに編集していれば、今のようなイロモノ扱いではなく、パゾリーニの「ソドムの市」(1976)みたいな世紀の問題作として名を残せたかもしれません。
それぐらい素材や役者は良かったので、惜しいなぁと思います。
でも、それは製作者の意図と違うんでしょうね。
きっと彼の意図は「過激なエロ描写がある文芸作品」ではなく、「文芸作風味がある過激なエロ映画」だったと思うので。
実はこの映画を見て一番良かったのは、中学時代から抱えてた「カリギュラ・トラウマ」が解消されたことですかね。
最近、エロポイントがある映画のレビューが多いので、今度はそっちも軌道修正したいなぁ、と思ってます。
(出来るかな?)
この映画のBlu-rayは「35周年記念HDリマスター盤」が、そこそこいい値段で売られてます。ボックスセットもありますが、そっちもかなり高価です。