70年代に、ブラックスプロテーションっていう、黒人がかっこいい主人公を演じる,、黒人観客を狙った映画のブームがありました。
その先駆けはハードボイルドでモテモテの黒人探偵が活躍する「黒いジャガー」(1971)。
「黒いジャガー」は大ヒットし、その後続編が2本、TVシリーズ、サミュエウ・L・ジャクソン主演でリメイク、Netflixでそのリメイクの続編と続いています。
勿論、プラックスプロテーションで作られた映画は玉石混淆で、名作からゴミのような映画まで様々。
そんなブラックスプロテーションの一本が今回レビューする「吸血鬼ブラキュラ」(1972製作/1973日本公開)です。
名前の通り、黒人が吸血鬼の映画。
子供の時、名前だけ知っていたのですが、今回初めて見てみることにしました!
(あらすじ)
18世紀。奴隷制度に反対するためにアフリカの某王国からトランシリバニアにやってきた王子夫婦は、招待したドラキュラ伯爵に騙され、王子は吸血鬼にされ、棺桶に幽閉。妃は殺されてしまう。
現代。王子が閉じ込められた棺桶はアメリカのアンティーク店に買い取られ、蓋が開けられる。200年ぶりに外の世界に出た王子=ブラキュラは、街中で亡き妃にそっくりの女性を見つける。彼女を探す間も、ブラキュラは人々を襲い、犠牲者が増えていく。不審な死者が増えていることに気づいた、警察の病理学者はこれが吸血鬼の仕業ではないかと疑うようになる・・・
うーん、想像してたのとはちょっと違いましたね。
勝手に「黒人的なノリの良さで、ちょっとユーモアや毒がある吸血鬼映画」って思ってたんですよ。
イメージとしては、プレイボーイ俳優ジョージ・ハミルトン主演のコメディ「ドラキュラ都へ行く」(1979)に近いかなぁ、と。
(これも勝手な想像。「ドラキュラ都に行く」も未見なんです)
で、この映画を見始めたワケですよ。
そしたらタイトルクレジットで・・・
Exective Producr : Samuel Z. Arkoff
あ、って思いました。
このプロデューサー、めっちゃ超B級専門なんですよ。
もう製作した映画見ると、そればっかり。
このブログでも取り上げた「未来世界」(1976)や「ドクター・モローの島」(1977)もこの人が製作総指揮。
その名前を観ただけで相当に心配です。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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出だしも、結構普通。
ドラキュラ伯爵に騙された黒人の王子が、吸血鬼にされて棺桶に閉じ込められるオープニングも、すごーくありきたりのB級ホラー映画テイスト。
その後のタイトルロールはとっても70年代っぽい、おしゃれなアニメーション。これはかなり好きなタイプ。
そしてBGMは、まさにソウルミュージック!
オープニングの(安物)B級ぶりは忘れて、ちょっと期待しちゃいました。
が、本編が始まると、本当に普通のB級ホラー黒人版。
アメリカ(多分ニューヨーク?)で復活したブラキュラが、結構場当たり的(男でも女でも)襲って、そいつらを次々に吸血鬼にしてくんですが、お笑いもファンクなノリもありません。
本当に現代を舞台にしたドラキュラ劇を黒人が演じてるだけ。
謎の死を遂げた死体が忽然と消えたり、急に生き返ったらしいことを不信に思った警察の病理学者(検察医みたいなもんでしょうか)が、「これは吸血鬼のしわざか?」と考えるようになり、少し頑固で聡明ではない同僚の刑事をけしかけて、事件を捜査していくんです。
勿論、このカッコイイ病理学者は黒人、頑固な刑事は白人です。
分かりやすいです。
病理学者の、頭のキレが良くて、見た目もスマートで、ちょっと強引だけど行動力があるキャラは、「黒いジャガー」の主人公を真似てる気がします。
あとはブラキュラに血を吸われて吸血鬼になった人を倒しつつ、病理学者が吸血鬼の仕業と確信していきます。
この間、ブラックスプロテーションらしさを感じるのは、ブラキュラが一目惚れした女性(ドラキュラ伯爵に殺された嫁さんにそっくりという設定の一人二役)を追っかけて入ったナイトクラブで、ソウルバンドが演奏しているところかなぁ。
ここのところは70年代&黒人映画って感じがします。
これ以外のところではブラックスプロテーションを感じるような部分はありません。
またホラー映画としても、ちょっと目新しさを感じたのは、ブラキュラに吸血鬼にされた集団が倉庫に潜んでいて、警察が突入すると襲ってくるシーン。
顔をうっすらと白塗りして、ゾンビのようにわさわさと集まってくるんです。
「ゾンビ」(1978)を思い出させるんですが、製作年を考えると、「ゾンビ」の前作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968)の影響かもしれません。
そのシーン以外は、それまでの吸血鬼映画と一線を画するようなオリジナリティはありませんでした。
ラストも愛した女性をせっかく吸血鬼にしたのに、その直後に殺されちゃって、「あー、生きる希望も何にもねえ!」とばかりに、自ら進んで朝日の中に出ていき、自殺。
(燃え尽きて骨になっちゃいます)この終わり方も結構王道かも。
ブラックスプロテーション映画を見るつもりだったのに、本当に、本当に70年代に量産されまくったB級ホラーを観たことになっちゃいました。
話は月並みで凡庸で、まさに十把一絡げの映画。
時間の無駄というほど酷い映画ではありませんが、わざわざ見るようなものもありませんでした。
結局ブラックスプロテーションのブームに乗っかって作られた、ただのホラー映画です。
ブラックスプロテーションの持つサブカルチャー的な要素は皆無。
マニアに訴えるものは1ミリもありません。
やはりSamuel Z. Arkoffの名前を見て、危惧した通りでした。
こんな映画ですが、日本語吹き替え版入りのDVDがお手頃値段で発売されています。
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