大監督の地位を気づいていたフランシス・フォード・コッポラ監督が「アウトサイダー」(1983)に続いて監督した青春映画「ランブルフィッシュ」(1983製作/1984日本公開)。
前作「アウトサイダー」の「なんだかなー」という印象を引きずったまま、「また青っちょろい青春映画かよ、けっ!」っていう気持ちで見に行った記憶があります。(だったら行くなよ)
見終わった後は妙にモヤモヤした気持ちになったんです。
不完全燃焼のモヤモヤではなく、ちょっと狐につままれたような不可思議な気持ちです。
そんなモヤモヤの原因はなんだったか、40年の時を超えてレビューします!
(あらすじ)
こじんまりとした地方都市の高校に通う不良の主人公は、いつも悪友たちとつるんだり、敵対する不良と喧嘩したりして過ごしていた。
そこに行方不明だった兄がフラリと帰ってくる。兄は伝説の不良<バイクボーイ>であり、主人公の憧れだった。しかし不良を辞めただけでなく、人生に悟り切ってた兄に主人公は戸惑う。更に兄は「もう不良なんてもう止めておけ」と主人公を諭す・・・
原作は「アウトサイダー」と同じS.E.ヒントン。
ヤングアダルト小説(ティーン向けの小説らしいです)で有名な作家だそうです。
確かに「アウトサイダー」も、この映画も10代の少年たち(それも不良)が主人公。
前作が意外にヒット&評価が高かったことで、「二匹目のドジョウ」狙いで、コッポラ監督が映画化したんでしょうか?
フォーマットとしては10代が主人公という以外にも、地方都市が舞台で、当時の若手スター達を集めてるのも似てます。
でも、映画としての肌触りは「アウトサイダー」とは全く違います。
「アウトサイダー」の公開当時の印象は、「甘くて、深みがない」でした。
僕的には不良の少年たちを美化してるように見えるところ(本当は内面はいい人)というのがちょっと鼻についくところもありました。
またスティーヴィー・ワンダーが歌う主題歌「Stay Gold」が「心温まる感じ」の良い曲だったのも、映画の印象が「甘く」見えたのかもしれません。
それに対して「ランブルフィッシュ」は不良の少年たちの現実を見せつけてます。
憧れていた伝説の不良<バイクボーイ>の兄はすっかり人生に冷めてしまい、「もうヤンキーなんてやめとけ」って言います。
いつもつるんでいた友達は悪いなりに大人になっていき、挙句の果てに主人公から彼女を奪ってしまいます。
そして気が付けばリーダーのつもりが独りぼっち。
最後は兄が警官に撃たれ、主人公は「どこかに進まなければならない」ことを悟るというもの。
いつまでも何も考えずにイキッていても、結局はどこにも行き着けないっていう「青春ドン詰まり」展開が絶望的で、とってもリアル。
全く毛色が違うけど、ちょっと前にレビューしたイギリス映画「さらば青春の光」と似てます。
あれもみんなの最先端を行ってると思ったら、周りは既に次のステップに進んでいて、自分だけが取り残されてることに気付く映画。
大人になることは遊びの時間が終わることではなく、賢く遊びを選ぶようになり、現実を見て、遊び続けられるように社会に適合してくこと。
でもそれを「負け」だと思い込んで、どんどん絶望へと追い込まれていくところがとっても似てました。
そんな絶望感漂う物語がほぼ全編モノクロで撮影されてます。
陰影が強く、時として50年代~60年代の映画を意識したスタイリッシュな映像が素晴らしい過ぎます。
また「ほぼ」と書いたのは、水槽の中のランブルフィッシュ(闘魚)やクライマックスのパトカーのサイレン、車の窓に映る主人公の姿(リアルな自分)といった物語のキーとなるものだけはカラーなんですよ。
これは本当に強烈です。
そんな独特の映像表現も相まって、この映画は「アウトサイダー」のような青春娯楽作ではなく、大人になれない子供たちの苦悩を描いた文芸作と言えます。
当時の僕には「アウトサイダー」とは違うことは分かってたし、作品としてちゃんと作られているのも分かってたけど、真の素晴らしさを全く理解出来なかったから、「モヤモヤ」してたんだと思います。
この映画、キャスティングが凄いんです。
主人公は当時売れに売れてたマット・ディロン。
昔は「カッコいいだけの俳優だろ?」って偏見がありましたが、この映画を見るとかなり上手い俳優だと分かりました。
そんで主人公の家庭が強烈。
母親が出ていってしまった父子家庭っていう設定なのですが、伝説的なヤンキーの兄を演じるのは爆発的に売れる直前のミッキー・ローク、アル中の父親はデニス・ホッパー
凄い配役の家族でしょ?
恋人役のダイアン・レインは得意の強気の美少女を期待通りに演じてます。
この映画と「アウトサイダー」に出演したことが後ろ盾となり、先日レビューした「ストリート・オブ・ファイヤー」(1984)に「実年齢が劇中設定より10歳若いにも拘らず」ヒロイン役に抜擢れています。
そして悪友はやはり売れる前のニコラス・ケイジとクリス・ペン。
ニコラス・ケイジはコッポラ監督の甥ということもあり、当時は縁故出演だったのかな?(でも上手いですけどね)
他にもトム・ウェイツやローレンス・フィッシュバーンも出演してるという豪華さです。
キャスティング的には「アウトサイダー」より渋いけど映画ファンは、こっちの配役の方に惹かれるんじゃないでしょうか。
更に音楽は、あの「ポリス」のドラマー、スチュアート・コープランド。
かなりアクの強い音楽を提供してます。
はっきり言えば好き嫌いが分かれるどころか、「え?!」と思う人が多そうな実験的な音。
主題歌の「Don't Box Me In」からして、かなり個性的です。
そもそも意味が「俺を閉じ込めるな」ですからね。
前述のスティーヴィー・ワンダーの「Stay Gold」(輝いていろよ)とは曲の雰囲気も含めて大違いです。
勿論、「ポリス」好きな僕はこのサントラが大好きです。
相当に映画マニアの心をくすぐる映画と言っていいでしょう。
本当に見直して良かったです。
僕のツボにスポっと入る感じ。
若い時のモヤモヤのままにしなくて良かった~。
(反対に若い人には、刺さりにくいかも、ですが)
残念ながら新品DVDは入手不可のようです・・・
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