えー、昭和のカルト映画を語る上で、ヲタクな人たちが「外せない」作品ってあるんですよ。
例えば、僕が溺愛する「ロッキーホラーショー」「ファントム・オブ・パラダイス」「デスレース2000年」もその類です。
そんな昭和カルトの「外せない」作品の中にはレビューを書くことに躊躇するものがあります。
それが今回の鑑賞した「食人族」(1980製作/1983日本公開)。
カルトの中のカルト。
なるべく映画のように(?)不快にならないようにレビューしたいと思います。
(あらすじ)
ドキュメンタリー映画を撮るためアマゾン奥地に入った若者4人が行方不明になった。彼らを捜索するために、大学教授がアマゾンに向かう。そして彼は食人を行う部族の村で4人が残したフィルムを発見し、持ち帰る。そのフィルムに映っていたのは、目を覆う彼らの残虐行為とおぞましい結末だった・・・
僕はこの映画を初公開時に劇場で見ています。
今はなき岐阜のピカデリー劇場。
同時上映があったハズなのに全く覚えてません。
それぐらいインパクトが強かったんでしょう。
そんな映画ですから、なんとなく避けていたところがあるんです。
まぁ、「カリギュラ」や「フレッシュゴードン」をレビューしておいて、今更言うのもなんですが・・・
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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しかーし、この映画を避けて、「昭和のカルト映画を見た!」と自称するワケにはいきません。
まさに踏み絵。
なので、今回意を決して挑戦(?)することにしました。
意を決したのはいいんですが、そもそもAMAZON PRIME、Netflix、U-NEXTのサブスクにはありません。
近所のDVDレンタル屋にもありません。
そして新品のDVDも売っていません。
まさにカルト・オブ・カルト。
そんなに簡単には壁を越えさせてくれないようです。
そこで、今回初めてTSUTAYA宅配レンタルを利用してみました。
TSUTAYA宅配レンタルはカルト映画の宝庫。
僕の最後の切り札です。
はい、宅配リストにありました。
早速、新規会員登録をして、DVDを取り寄せます。
ちなみに2作一組で取り寄せられるので、もう一本はジェームス・グリッケンハウス監督の「ザ・ソルジャー」(1982)にしました。
届いた封筒からDVDを出すと・・・「本当に食人族」
DVDを眺めながら、「ここまでして見る必要があったのか?」と、ついつい自問自答してしまいます(笑)
劇場で見た時「こんな残酷なことが本当にあったのか!!!」と思いました。
ずっとそう思ってました。
当時の宣伝も「ドキュメンタリー」って売りだったんです。
パンフレットの表紙(下の写真参照)にも「地球最後のショックドキュメント!」って書いてあります。
またパンフレットには俳優のクレジットは一切なし。
主人公は「ベトナム、アフリカなどを記録した映画を監督」と説明書きがあり、「出演者はホンモノで、俳優じゃないです」風だったんです。
ドキュメンタリーだって思いますよね???
ノンフィクションだって信じますよね???
しかし後年になって実はドキュメンタリー風映画=モキュメンタリーだって知りました。
「ブレアウィッチ・プロジェクト」や「パラノーマルアクティビティ」と同じってことです。
いや、「モキュメンタリー」みたいな高尚なジャンルではなく、「やらせ」ってやつです。
だったら宇宙怪獣が襲ってくるモキュメンタリー「クローバーフィールド」に近い?
いや、本当に近いのは「川口探検隊シリーズ」だと断言できます。
当時の僕はまんまと騙されたワケですよ。
小学生の時に川口探検隊に騙されたように。
今回、見返すと高校生の僕に「お前、気づけよ」って突っ込みを入れたくなります。
そもそもスタッフはイタリア人
アメリカ人の話で、アマゾン以外はニューヨークが舞台なのにセリフは全部イタリア語
そう、これはイタリア映画なんです。
あのヤコペッティの元祖モキュメンタリー「世界残酷物語(イタリア/1962)」の血を引く作品だったんですねー。
映画は二部構成。
前半は行方不明になった若者を探す大学教授一行の話
後半は若者たちが残したフィルムの話
とくに前半の教授探索編は難易度★一つの間違い探しです。
カメラアングルからして完全に劇映画。
どう考えても、捜索隊とは別のカメラマンが、離れたところから撮ってるんですよ。
現地人の方にクローズアップしたアングルも多いし。
これをドキュメンタリーだと信じさせた宣伝効果は凄いです。
(昭和という時代が、そういうものを信じやすい時代だったと言えますが)
もうドキュメンタリー風劇映画の典型みたいでした。
ああ、高校生の時に嘉門達夫さんの「ゆけ!ゆけ!川口浩!」を聴いていたら、見ぬけていたのになぁ・・・
(「ゆけ!ゆけ!川口浩!」は、この映画公開の翌年に発売されてます)
後半は若者たちが残したフィルムなんですが、こっちの方はかなりドキュメンタリーっぽくなってます。
カメラも全て彼ら目線。
「4人とガイド全員が映ってる」とか「部族の方から若者たちを見てる」みたいな前半にはあったようなシーンはないです。
ただ「敵に追われて逃げてる時まで、ご丁寧にカメラを回してる」みたいな、モキュメンタリーあるあるシーンは結構ありましたねー。
更にドキュメンタリー度を高めるために、アメリカにいる若者の家族や友人へのインタビューを入れたりしてるんです。(勿論イタリア語)
そして最後にこのフィルムはあまりに酷すぎるということで門外不出になって映像は終わるんです、その後に映写技師がこのフィルムを無断で持ち出して罰金になった、というテロップが出る凝りよう。
ここまで徹底すると、フェイクを作るのも楽しんじゃないかって思えてきました。
僕が大人になったって証拠ですかね?w
問題の残酷シーンですが、記憶以上にいっぱいありました。
ちなみに残酷シーンは若者が残したフィルムだけじゃなく、教授たちの探検パートにもきっちりあります。
原住民の奇妙な風習と称するものがいくつもあるんですが、今から思うとよくいろいろと考えるなぁ、と感心します。
この映画、ドキュメンタリー風にエログロを見せるために、結構工夫してることが分かりました。
リーダーのドキュメンタリー監督は「いつもヤラセ疑惑がいつもある」とう設定。
「面白いドキュメンタリーを作るためなら、インチキ上等」ってスタンスなので、原住民の家をわざと燃やして「敵の部族にやられたことにしようぜ」とかやっちゃいます。
つまり彼が作っているのはヤラセドキュメンタリー。
これって入れ子構造ですよね?
だってヤラセドキュメンタリー映画の中で、主人公たちがヤラセドキュメンタリーを撮影してるんですよ。
凄くないですか?
更に残酷シーンを作るために若者たちは「原住民に何をやっても文明人の俺たちは許される」設定。
彼らは部族の女の子を襲っちゃうんですが、被害者の女の子は「汚れた」ということで、部族に「串刺しの刑」になっちゃうんです。
この「杭に刺さった少女」のビジュアルこそが、この映画をカルト・オブ・カルトに押し上げているといっても過言ではないです。
このシーンを見たさに、当時観客が映画館に集まったんじゃないでしょうか。
(「食人族」は日本で大ヒットしました)
それぐらいこのビジュアルの破壊力は絶大。
当然ですが、パンフレットの表紙にもなっています。
更にフィギュア化され、ちょっと前までアマゾンで入手可能でした。
もうヤラセドキュメンタリーの女神かアイコンですね。
クライマックスは若者たちの傍若無人な振る舞いが、原住民の怒りを買って皆殺し、っていう展開になります。
そしてフィルムを回収した教授が「本当の野蛮人はどっちだったんでしょうね」と、文明批判をして終わり。
まぁ、文明批判のセリフは、誰の胸にも響いてなかったと思いますけど。
残酷シーンは意外にも「ふーん」っていう目で見れます。
ヤラセっていうのが分かってるのもあるんでしょうが、21世紀のハードコア・スプラッターに目が慣れてしまってた、っていうのも原因じゃないでしょうか。
そんな残酷シーンの中でも「えっ?!」っていうところがあります。
それはを動物虐待シーン。
間違いなくリアルに亀やサルを殺しています。
これは酷い。
気分悪いです。
さて、下世話な観客を集めるためにはエロとグロだ!っていうことで、エロっぽいシーンも多いです。
それでも10代半ばぐらいの女の子(設定は原住民)がスッポンポンなのはヤバいんじゃないでしょうか。今なら絶対アウト。
ネット配信がないのは、残酷なシーンよりも、こういうシーンかもしれません。
ホント、20世紀ってコンプライアンス意識ユルユルでしたねー。
結論から言えば「いろいろと裏ネタが分かっていた」ので、当時のようなショックは受けなかったです。
寧ろこれをドキュメンタリーだと信じてた当時の自分の方がショッキングです。
昔は他にも「世界残酷物語」「グレートハンティング」「バイオレンスUSA」「食人大統領アミン」といったエログロ・世界案内ドキュメンタリー風映画が定期的に封切られてました。そして気づいたら消えてましたね。
まさに昭和の時代のシンボル的なジャンルだったと言えます。
そして「食人族」はこのジャンルの最終形態として燦然と輝いているのです。
(それでも普通の人が見ることはお勧めしませんが)