パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【ファイヤーフォックス】過去の思い出か、はたまた未来のデジャヴュか

クリント・イーストウッド監督・主演の軍事アクションドラマファイヤーフォックス(1982)

当時、本国では結構ヒットしたらしい(当時のイーストウッド主演映画の最高興行収入だとか)ですが、彼の映画の中では異色扱いされ、マニア以外に取り上げられることは少ない作品になっている気がします。

ファイヤーフォックス」ってブラウザーだけじゃなくて、映画もあったってみなさん、知ってました?

でもあのブラウザーとは無関係です(笑)

 

(あらすじ)

ソ連アメリカの戦闘機の性能を大きく凌駕する戦闘機「ファイヤーフォックス」を完成させた。アメリカはそれを奪取すべく、ロシア語に堪能なベテランパイロットのミッチェル・ガントをソ連に潜入させる・・・


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イーストウッドと言えば初期は西部劇、その後は現代劇の人ですよね。

当時もそういうイメージでした。

 

そんな彼の新作として流れたこの映画のCMには、近未来的なデザインの異形の戦闘機が高速でビュンビュン飛行する場面が全面に押し出されてました。

調べると特撮を担当したのは、最初の「スターウォーズ」で名を挙げたジョン・ダイクストラ

そりゃSFファンはデススター攻略戦の現代版を期待しちゃうわけですよ。

監督・主演がクリント・イーストウッドというのは「SF映画にマッチするか?」という一抹の不安はあったものの、

きっと「ダーティー・ハリー」+「スターウォーズ」みたいな血沸き肉躍るアクション近未来SF冒険活劇に違いない!

と無理やり(?)期待したわけです。

 

(※)ちなみに劇中のソ連の最新鋭戦闘機MIG31ファイヤーフォックスは架空の戦闘機です。

 

で、当時、胸を躍らせて劇場に行ったんです。

ちなみに同時上映は「マイライバル」って映画。

でも内容どころかどんな映画かさっぱり覚えてません。多分、見たハズなんですが・・・

調べてみるとマリエル・ヘミングウェイ主演のスポーツ物みたいです。

サブスクもDVDもなさそうです。

1982年 岐阜の映画上映リスト

 

そんで目的の「ファイヤーフォックス」を見終わって劇場を出てくる時は、

 

「うー-ん?68点?」

 

みたいな気分でした。

 

その原因を探るべく、今回40年ぶり(!)に見直してみました。

ファイヤーフォックス パンフレット表紙

なるほど、原因は大体分かりました。

はっきり言って、血沸き肉躍るアクション冒険活劇ではなかったってことです。

ましてや宣伝で全面に押し出されていた戦闘機ファイヤーフォックスが全編に渡ってバンバン活躍しまくるような近未来SF映画でもありませんでした。

 

普通のスパイ映画だったんです。

 

つまり映画に負けたのではなく、宣伝に負けたってことです。

 

前半2/3は、凄腕パイロットだけど、ベトナム戦争のトラウマがあって、スパイとしては素人のイーストウッドが、現地の工作員の手引きを受けながら、次々と身分を変えて、ファイヤーフォックスのある基地にたどり着くまでの話。この部分は本当に地味なスパイ映画です。

 

勿論、お約束ですが、冷酷で、頭の切れるKGBの大佐が追ってきます。

この悪役は中学生でも思いつく、ステレオタイプ

もう少しヒネって欲しかったなぁ。

 

片や主演のイーストウッドは、ベテラン軍人だけど、スパイはやったことがない、という役柄には合ってます。ただ「ベトナム戦争でトラウマを抱えている」いう設定があまり効果的に使われてなかったのは残念なポイント。

 

とにかくこの前半は目新しさはなく、ちょっと古いタイプのスパイ映画を手堅く再現しているように見えます。

かといって初期の007のようなアクションや爽快さはないし、1965年の傑作スパイ映画「国際諜報局」のようなクールなリアリズムもない。

ドキドキするシーンはあるのですが、展開が地味&ありきたりでダレます。

 

なんとか基地にたどり着き、すったもんだがあった挙句、ファイヤーフォックス1号機を奪取。そこからは特撮を駆使した逃走劇&ドッグファイトです。

当時は「やっぱり宇宙空間と違って、昼間の地上の特撮はちゃっちぃなぁ」と思ってたんです。

しかし、今見ると実はなかなか良いんですよ。こんなにカッコ良かったけ?と思う出来。当時は期待値があまりにも高過ぎたんでしょう。

 

見終わって思ったのは、イーストウッドはこれをアクション映画ではなく、スパイ映画として作ってたのかな?」ということです。

イーストウッドが力を入れて撮影したのは、人間ドラマを描く前半の方のように思えるからです。(本人も特撮は好きになれないと言ってったようですし)

 

また前半のスパイ劇と後半の戦闘機アクションが全然別の映画に見えてしまい、無理やり異なる二つの映画をガッチャンコさせたような違和感があるからです。

 

だからこの映画を純粋に「スパイ映画」というには、あまりに中途半端過ぎます。

かといってアクション映画というには、前半が「スパイ映画」過ぎるんです。

そしてそのスパイ映画の部分が凡庸なのがイタイです。

その凡庸さを、後半の(話らしい話のない)空中戦で補うのは無理です。

 

そのため残念ながら、見終わった後に当時の評価を覆すほどの面白さは感じませんでした。

 

この出来の上に、「近未来SF」っぽい宣伝のせいで、イーストウッド映画としては異色という印象を持たれてしまっていることもあり、振り返ると「あー、そんな映画もあったねぇ」という分類になってしまってるんでしょう。

 

さてここで気分を変えて(?)、この映画の目玉、ファイヤーフォックスのデザインについてです。

ミリタリーヲタクでもあった当時の僕の目には、「戦闘機に詳しくない人が、適当にいくつかの戦闘機の写真を見て、組み合わせて作った」ようなデザインに映りました。

 

ファイヤーフォックス(パンフレット表紙から抜粋)

 

胴長で尾翼がないデルタ翼は、超有名偵察機SR71「ブラックバード」の変種みたいです。

SR-71 (航空機) - Wikipedia

現代の戦闘機のデザインから離れていて、とってもドッグファイト(戦闘機同士の空中戦)をする戦闘機に見えないんです。

 

こんなミリタリーヲタクをワクワクさせる設定の映画なのに、肝心の最新鋭機のデザインを素人がやったらダメだろう、って憤慨したものです。

 

しかし今回、リアリズムを追求しない「80年代のレトロフューチャー的な戦闘機」として見れば、意外に個性的でかっこいいんじゃないかって思えました。

お手頃なフィギュアがあれば、映画ファンとして飾ってもいいと思うレベルにまでなりました。

 

さて、この映画、冷戦時代に作られたこともあり、ソ連(ロシア)が「いつも通り」敵として描かれています。KGBはみんな冷徹で切れ者、ロシア軍人は官僚的で四角四面。そして全てが地味。

 

冷戦時代にいろんな映画で描かれてきた敵国・ソ連そのままです。

 

でもそういうソ連が描かれるのも、この頃が最後の方だった気がします。

80年代後半にはソ連が改革を始め、西側のミュージシャンがモスクワで大規模なフェスティバルをやったりと開放的になりました。

映画でもソ連を敵国として描く一辺倒ではなくなりました。

アーノルド・シュワルツェネガーが演じるソ連の刑事が、アメリカの刑事とコンビを組んで事件を解決する「レッドブル」(1988年)が代表例でしょう。

 

ソ連崩壊後は、映画ではアジアや南米、旧ソ連から独立した地域の独裁国が西側スパイの敵役になりました。

だからこんなソ連が敵役の映画を見ると、懐かしいなぁーって思うんです。

 

でもウクライナ戦争が起こって、また冷戦の予感がします。

またロシア(ソ連)が敵役の映画がバンバン出来るのでしょうか。

世界平和のために、この映画が未来の映画のデジャヴュでないことを祈ります・・・

 

サブスク系ではAmazonとNexflixにはなかったですが、U-Nextにはありました。

またAmazonで新品Blu-rayがお手頃で買えます。