パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【東京湾炎上】僕らを救ってくれるのは誰だ?藤岡弘か?特撮か?いや、丹波哲郎だ!

今回、レビューするのは日本映画東京湾炎上」(1975)。

日本沈没」の大ヒットを受けて、邦画でもパニック映画が流行った時期に作られた一本です。

主演は我らのヒーローと言えばこの人、藤岡弘さんです。(まだ「、」がない頃)

 

(あらすじ)

東京湾に入港しようとしているタンカーが某国のテロリスト集団にハイジャックされる。彼らは資源メジャーや先進国に搾取される最貧国の窮状を訴えるため、日本の石油備蓄基地の破壊を要求。受け入れられない場合は、原油が満載されたタンカーを東京湾の真ん中で爆破すると言ってきた・・・


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冒頭から昭和歌謡が流れるオープニング。男臭い藤岡弘のジョギング。別れた彼女と抱き合う回想シーン等、昭和感満載の映画です。

 

僕がこの映画を初めて見たのは浅草でした。

昭和から平成に変わる頃だった気がします。

当時は都内のいくつかの映画館で、土曜になると夜10時頃から朝6時頃まで4本立てぐらいのオールナイト上映というのがあったんです。

10-20年前ぐらいの中途半端に古い映画を、テーマを決めて寄せ集めるんです。

オールナイト上映をやる映画館って、大体そこそこ大きいんだけど、古くて小汚い映画館が多かったですね。今は亡き雑誌の「ぴあ」を持っていくと100円ぐらい割り引いてくれました。

 

その日のお題目は「日本のパニック映画」。

地震列島」「新幹線大爆破」「東京湾炎上」「日本沈没」の四本立て。

お目当ては「日本沈没」で、4本立ての最後に上映で、「眠気に勝てるか?」と心配したのを覚えています。

今からよく考えると、この映画や「新幹線大爆破」は、パニック(災害)映画というより、サスペンス映画(犯罪映画)ですよね。その辺りのおおらかさも昭和でした。

 

主演の藤岡弘さんはこの頃、「日本沈没」「エスパイ」「野獣狩り」に主演とヒーロー全盛期。この映画でもスティーブン・セガールの「沈黙の戦艦」みたいに、船内で一人バッタバッタと敵を倒していくのかと思ってましたが、どちらかというと狂言回し的な役です。ただ彼が出てると、画面に緊張感が溢れます。

 

準主役は船長役の丹波哲郎さん。

藤岡弘さんとは「日本沈没」でも共演してますが、あの映画では深海潜水艇の操縦士と総理大臣という役柄上、絡みはなかったんですが、本作ではしっかり「共演」しています。

藤岡弘さんはいつもの「藤岡弘」でいつもの熱い男を見せるんですが、丹波哲郎さんは「丹波哲郎」を演じるだけでなく、ちゃんと船長らしく演じてるんですよ。この辺りが当時の役者としてのキャリアの違いなんですかね。

特に「最貧国がどんなに搾取されてるか世界に知らせるんだ」というテロリストに対し「暴力で搾取された君たちが、今度は暴力で訴えるのか」と引けを取らずに反論する丹波哲郎さんはカッコイイです。さすが「007は二度死ぬ」で日本の諜報局のボスとしてジェームス・ボンドに引けを取らない存在感を見せただけあります。

 

あと印象に残ったのは宍戸錠さんの人情味厚い機関長。

若かりし頃はアクションスタ、その後はユーモアを交えた役柄を得意としてたのですが、この役は彼の意外な一面を見ました。このまま、この方面に芸歴を伸ばしたら面白かったのになぁ、と思いました。

 

その他にもトリックをしかけるTVプロデューサーが佐藤慶さん、テロリストの一人が水谷豊さんなど、味のある俳優を配置しています。

 

話は徐々にテロリストを追い詰めていくのではなく、前半は船員たちが反攻するものの、失敗して犠牲者が出てテロリストが優勢の展開。我らがヒーロー、藤岡弘さんもタイマン勝負で負けます。

テロリスト優位のまま話の半ばにきて、ハイジャックの目的が金銭ではなく、タンカーと引き換えに日本の石油備蓄基地を爆破し、最貧国の現状を訴える政治目的であることが判明。

話の主軸が人質の船員達から、政府によるテロ対策に移り、政治スリラーの色が濃くなってきます。

 

テロリストの中にも理想主義のリーダーに反して、第二次世界大戦中に両親を日本軍に殺されいるので日本人を皆殺しにしたがる男や、「日本赤軍」をモデルにした謎の日本人(水谷豊さん)がいたり、と当時の世相を反映しています。

 

政府は、東京湾内でタンカーが爆破しても、また石油備蓄基地が爆破しても、どちらでも甚大な被害が出ることから、トリックを使ってテロリストを欺く計画を立てます。

実はこれがこの映画の肝です。

 

ネタバレすると石油備蓄基地を「特撮」を使って、さも爆破しているうにTV中継し、タンカーを解放させようとします。

政府が秘密裏に特撮スタッフやTVプロデューサーを集めます。

その動きを察知した新聞記者たちは、次々と拉致されていきます。日本政府、怖いです。

 

ちなみに劇場で見た時は「こんな特撮じゃテロリストにバレバレだよね」と思ったんですが、今回見直すと意外に迫力があって良いんですよ。きっと当時はアラさがしみたいに映画を見ていたからかもしれません。

 

残念ながら政府のトリックがバレて(特撮が下手ではなく、別の理由)、テロのリーダーがタンカー爆破を宣言。

そこで再び丹波哲郎さんが説得しようとするシーンは迫力ありますね。

リーダーは折れませんが、船員には退去するように男気を見せます。

政治信条が異なるが犯人にも人間味がある、男同士の対決シーンです。

 

やっぱりこの映画のヒーローは藤岡弘さんではなく、丹波哲郎さんだったかも。

 

全体的には藤岡弘さんと恋人の回想シーン以外にダレはなく(どうして昭和の映画ってこういうシーンを毎度入れたがるのでしょうか)、全体的にスピーディーに進んでいく良作です。比較的強引な展開もないので、安心して見られます。

ただし最初に書いたように典型的な昭和の娯楽作なので、古臭く感じるところが散見されるのはご愛敬です。

 

70年代は政治スリラーっていうのが流行ってましたね。

「皇帝のいない八月」(1978年)、「ブルークリスマス」(1978年)、「野生の証明」(1978年)、80年制作ですが「戒厳令の夜」というのもありました。

個人的には「皇帝のいない八月」と「ブルークリスマス」が好きです。

 

最後に浅草の4本立てで、一番面白かったのは「新幹線大爆破」でした。

(「日本沈没」の時には意識が朦朧としてたというのもありますが)

 

私は今回、Amazon Primeのサブスクで鑑賞しました。

新品のDVDも手に入るようです。