パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【黒蜥蜴(1968)】黒蜥蜴=美輪明宏さん、これは間違いない!

江戸川乱歩さんの明智小五郎シリーズの「黒蜥蜴」は何度か映像化されてます。

その中で最も有名なのが美輪明宏さんが主演した「黒蜥蜴」(1968)。

カルト作品として語られることもある作品です。

初めて見たのは今から20年ぐらい前ですが、その時は「ふーん、これが有名な黒蜥蜴か」程度の感想でした。

先日、テレビで放送されたので、久々に見てみました!

 

(あらすじ)

名探偵・明智小五郎は、立ち寄ったバーで旧知の友人から宝石商を紹介される。彼の元には愛娘を誘拐するという予告状が届いており、明智は警護を依頼される。しかしその会話をバーの主人である妖艶な美女・黒蜥蜴は盗み聞きしていた。

犯行予告の当日、黒蜥蜴は宝石商の上客として宝石商の愛娘に会っており、見事彼女を眠らせ、トランクに詰めて連れ去る。しかし明智はその計画を見抜いており、彼女を取り返す。

しかし遂に黒蜥蜴は宝石商邸で愛娘を誘拐することに成功する・・・


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江戸川乱歩さんの原作となってますが、この映画は原作の直接の映像化ではなく、三島由紀夫さんが1961年に戯曲化したものを映像化してます。

美輪明宏さん(当時は丸山明宏さん)が黒蜥蜴を演じた舞台が評判だったため、そのまま彼の主演で映画化されたのがこの映画。

ちなみにこの時は二度目の映画化で、最初の映画も三島由紀夫さんの戯曲が下敷きになってます。(製作は1962年で、ミュージカル版だったそうです)

 

さて、今回見て思ったのは、美輪明宏さんの絶対的な存在感

彼の黒蜥蜴は唯一無二です。

妖艶な妙齢の上品な女性でありながら、冷徹で天才的な盗賊、そして明智小五郎に恋い焦がれる女を全て完璧に演じてます。

もうね、これ見たら彼以上に黒蜥蜴を演じられる人はいないと思っちゃます。

 

セリフ回しが、もう僕らの知ってる「あの美輪明宏さん」。

幻魔大戦」(1983)のフロイ、「もののけ姫」(1997)のモロと変わりません。

普通の映画なら浮いててもおかしくない大仰さとクサいセリフが多いんですよ。

 

でも、それは深作監督が演劇を無理やり「映画化」するのではなく、映画の中で舞台劇をそのまま観客に見せようという狙いがあったんじゃないでしょうか。

なので意図的に美輪明宏さんを始めとした出演者のセリフや演技を出来るだけ大仰な舞台劇のまま残しているように思えます。

 

ラストで、死んだはずの黒蜥蜴がオスカー・ワイルドの「サロメ」の巨大な挿入画の前で踊るんですが、まるで演劇の「アンコール」のようです。

ここに好き嫌いの分かれ目があります。

 

僕はこの映画を観ている間、それが気になりませんでした。

いや、寧ろ今回は美輪明宏さんが連発する演劇的な演技に惹かれたんです。

 

何で、最初に見た時、それが分からなかったんだろ?

きっと、「映画だから」っていう先入観が強くて、演劇的な面白さに気づかなかったのかもしれません。

 

深作欣二監督は、美輪明宏さんの魅力を一番引き出せるのは、演劇的な世界だと考えて、この映画を作ったような気がします。

 

特に美輪明宏さんが登場する度に、色々な衣装(時には盗賊でありながら、非現実的な派手な衣装)に変わるんですが、そこも演劇的だし、美輪明宏さんの写真集を見ているようです。

(個人的にはやはり、派手ではないですが妖艶なマダムの姿が好きでした)

 

この映画は「美輪明宏さんの映画」以外何物でもありません。

 

黒蜥蜴の最後なんて、可憐の一言。

彼の魅力にそれを最大限引き出した深作欣二監督はさすがです。

 

ちなみに美輪明宏さんはこの映画では主題歌の作詞作曲も行い、更にこの後も舞台版で何度も主演を勤めるだけでなく、演出もされてたそうです。

まさに黒蜥蜴=美輪明宏さん。いや美輪明宏さん=黒蜥蜴?

まさに当たり役。

ここまでの当たり役に出会える役者はそうそういるもんじゃないでしょう。

 

この映画を見ると、舞台版の美輪明宏さんの黒蜥蜴を見ておかなかったんだろう、って後悔しました。

 

黒蜥蜴_ポスター

この絶大な存在感のある美輪明宏さんに対峙する名探偵、明智小五郎を演じるのは木村功さん。

知的でクール、それでいて奥手ながら黒蜥蜴との恋の駆け引きもする名探偵の役は悪くなかったです。寧ろ、標準以上。

ただ美輪明宏さんに対する存在感と互角とはいかず、時折、黒蜥蜴の引き立て役に見えてしまいます。

 

僕らの世代で明智小五郎と言えば、子供の頃に人気のあったテレビの「江戸川乱歩の美女」シリーズ(1977-1994)の天知茂さん。

土曜の夜の2時間ドラマで、不必要に裸の美女が出てくる、ちょっとエッチな作風が10代の子供をドキドキさせてくれました

天知茂さんは1977年から急逝する1985年まで25本でこの市リースで明智小五郎を演じていてたんです。

だから僕の中では、今でも明智小五郎天知茂さん

 

もし、この映画でも存在感抜群の天知茂さんが演じてたら、美輪明宏さんと互角の演技合戦が見れたのかな?と思いました。

(ただし当時はテレビの「江戸川乱歩の美女」シリーズは始まってませんでしたが)

 

この映画では木村さんだと盗賊VS名探偵のバトルでは勝っても、恋の駆け引きでは負けてるという絶妙な感じが良かったんです。

でも個性と押しの強い天知茂さんが演じてたら、黒蜥蜴と明智小五郎の秘めた恋が情熱大恋愛に変わっちゃったかもしれませんね。

だって天知茂さんだと恋の駆け引きでも勝っちゃいそうな雰囲気なので(笑)

 

そう考えると「明智小五郎と黒蜥蜴の秘めた恋」なら、木村功さんで正解だったのかも。

 

それでもやっぱり美輪明宏さんVS天知茂さんの黒蜥蜴と明智小五郎を見てみたかったなぁ、と思ってたからら、舞台ではこの組み合わせで演じられたことがあったことを発見!

見れた人が羨ましい!!!

 

あとこの映画で目を引いたのは宝石商の愛娘を演じた松岡きっこさん。

この時、19歳。

めっちゃ可愛い。

それも昭和的な可愛さではなく、今の目線で見ても十分可愛い!!!

まさに美貌の令嬢という役がピッタリでした。

この映画の松岡さんは一見の価値ありです。

 

そしてこの映画で忘れてはいけないのは三島由紀夫さんの原作。

「怪盗 対 探偵」という単純な図式をそのまま生かし、寧ろそれを利用した耽美主義や人と人とのやり取り(関係性)に重点を置いた話作りは、演劇や映画といった「見せる」ことに注力するための「話」でした。

なので名探偵を出しながら「謎解き」や「タネ明かし」的なものは極力排し、怪盗と探偵、男と女の駆け引きを前面に押し出したドラマの印象が強いです。

そのためミステリー作品やサスペンス作品として見ると、ちょっと肩透かしを食らうこと間違いなし。

(これが僕が一番最初に見た時に、「おや?」と思ったところ)

 

その三島由紀夫さんですが、実はこの映画に出演しています。

役柄は黒蜥蜴の「人間博物館」のはく製。

黒蜥蜴は美男美女や肉体的に美しい人間をはく製として保存して、愛でているんです。

その中で、彼女のお気に入りのはく製の役が三島由紀夫さん。

 

黒蜥蜴_美輪明宏さんと三島由紀夫さん(右がはく製役の三島由紀夫さん)

このシーンの後、美輪明宏さんは愛おしそうに三島由紀夫さんの口づけをします。

ノーベル文学賞候補にもなった三島先生が上半身裸ではく製の役をやっているのを見た時は、さすがに衝撃でした。

 

ちなみに三島由紀夫さんは大の映画好きで、「からっ風野郎」(1960)や「憂国」(1966)で主演をしています。

 

あと音楽を担当しているのは冨田勲さん。

僕にとって冨田さんはシンセサイザー奏者で、クラシック曲をベースにしたアルバムをアメリカでヒットさせまくってる人でした。

その後、昔の映画やTVで彼の名前を見つけて「ああ、ドラマや映画音楽もやってるんだ」と知って、調べてみたら「キャプテン・ウルトラ」(1967)、「マイティジャック」(1968)、「ノストラダムスの大予言」(1974)といった、僕のボンクラ魂に触れる作品も担当していました。

 

今回見直したことで、この映画の本当の魅力が分かった気がします。

それだけでも見直した価値はありました。

 

この映画は美輪明宏さん演じる黒蜥蜴を楽し映画。

そして演劇的な演出と、主演二人の駆け引きを楽しむ作品です。

 

繰り返しますが江戸川乱歩先生の作品だからといって、ミステリーやサスペンスではありません。

そのポイントさえ納得できれば、さすが深作作品だけあってテキパキとしたテンポで話は進むし、観易い作品です。

 

ただし「何で明智小五郎は黒蜥蜴の企みに気づいたの?」みたいな「何でも説明して欲しい」人はダメかもしれません。

そこは「スーパー探偵だから」と(ご都合主義と)割り切れって観られれば、十分に娯楽作として楽しめます。

 

まぁ、完成度は高いものの、いろんな意味で普通の映画とは違うのでカルト映画扱いになっているのは止むを得ないところではありますが。

 

この映画単体の新品DVDやBlu-rayは入手出来ませんが、同じく美輪明宏さん主演/深作欣二監督の「黒薔薇の館」とのセット版が入手可能です。

 

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