僕が大好きなバンドはThin Lizzy。
アイルランドのロックバンドで、主に70年代に活躍し、84年に解散。
リーダーで作曲家でカリスマだったフィル・ライノットが86年に他界したことで、Thin Lizzyは永遠に消滅してしまいました。
そんな彼の生涯を追ったドキュメンタリー「Phil Lynott – Songs For While I’m Away」が発売されたので購入しました。
(あらすじ)
アイルランド人の母親と黒人の父親を持つフィルは、アイルランドで育ち、ローカルバンドとして始まったThin Lizzyを世界的なバンドに導く。しかし80年頃から徐々にスランプとなり、バンドは84年に解散。フィルはソロ、新バンドと模索する中で急逝する。
彼の生涯を2時間という枠の中で、上手にまとめてます。
インタビューも豊富で、インタビューされる人の選び方も悪くないです。
フィルの生前の音声も結構使われてます。
またアイルランドの街でふんだんにロケをしたりと、Thin Lizzy愛があります。
Thin Lizzy=フィル・ライノットと言えばアイルランドですからね。
無名時代~Thin Lizzy大ヒット前までの話は、見たことがない映像も多くてThin Lizzyファンとして凄く楽しめました。
インタビューの中では、やはりヒューイ・ルイスが一番「おおお」となりました。
彼が売れる前にThin Lizzyの前座をやったことや、Thin Lizzyの名盤「Live and Dangerous」にゲストで参加していることは、ファンの間では有名な話なんですが、ちゃんとこういうドキュメンタリーで話をしてくれるのは、ファンとして嬉しかったです。
(「Baby Drive Me Crazy]という曲でハーモニカを吹いてるのがヒューイ・ルイス。曲の途中のメンバー紹介でフィルが「ハーモニカはヒューイ・ルイス!」って言ってます)
Thin Lizzyのアルバム6枚のジャケットを描いたジム・フィッツパトリックが出てるのもファンとしてはニヤリだったんじゃないでしょうか。
(彼がジャケットを描いてた人って説明はなかったですが)
あとゲーリー・ムーアが抜けた後に、急遽助っ人として参加したミッジ・ユーロ(ウルトラボックス)がコメントしているのもマニア向けの「面白い人選」でした。本人は全然音楽のジャンルが違うから、呼ばれてビックリ、だったそうです。勿論、当時のファンもビックリしたと思います(笑)
このドキュメンタリーで彼がThin Lizzyで演奏する映像は初めて見ました。明らかに服装や演奏ポーズがバンドに合ってないのがおかしかったです。
(Youtubeにもありました)
劇中の選曲も悪くなかったですね。
かなりツボを押さえた選曲だったんじゃないでしょうか。
僕の大好きな「それでも君を」もあったし。
アイリッシュメロディを取り入れた名曲「Black Rose」がなかったのは残念ですが、そこは同じくアイルランドのことを歌った「Eemrald」を使ったので、重複をさけたのかもしれません。
ただ「Eemrald」を使うなら、あの中間部の印象的なツインのハモリフレーズまで流して欲しかったです。
実は何よりも印象的だったのはダブリンの街中に、あんなにフィルのイラストや写真、落書きがあること。
本当にアイルランドでThin Lizzy=フィルは愛されてたんですね。
あれを見るとアイルランドに行ってみたくなります。
ただしThin Lizzyファンだからと言って、このドキュメンタリー全てが良いと思ったワケではありません。
一番気になったのは、元メンバーのインタビューの少なさ。
出てきたのはギタリストのエリック・ベルとスコット・ゴーハム、キーボーディストのダーレン・ワートンだけ。
幼馴染で、フィルと並んでバンドを最初から最後まで支え続けたブライアン・ダウニーが出演しないのは寂しいですね。エピソードもいっぱいあったでしょうに。
あとは黄金期のギタリストであるブライアン・ロバートソンの証言も欲しかったなぁ。(ただブライアンは、いつも酔っぱらってるから、インタビューしたけど、映画に使えなかった可能性あり)
ギタリストと言えばゲーリー・ムーアのことにほとんど触れられてないのは何かあるんでしょうか。
彼は10年前に亡くなっているので、インタビューは無理ですが、フィルにとってアイルランド時代からの重要な人物なので、もっと触れて欲しかったです。
エリック・ベル脱退後は、すぐにツインになったんじゃなくて、ゲーリーと一緒に何曲か作って発表してるし、彼が正式参加したアルバム「Black Rose」は最高傑作と言われてるし、Thin LIzzy解散後にゲーリーがフィルを誘って曲を作って大ヒットさせてるし。
全体的にも、黄金期と呼ばれるスコット・ゴーハム&ブライアン・ロバートソンのツインギター時代の後のことは駆け足のように、はしょられてるのは不満でした。
特にスノーウィー・ホワイトとジョン・サイクスがギターを弾いてた時代や、解散後のソロ活動や新しいバンド「Grandslam」が完全に素通りなのは、かなり片手落ちです。
スランプになった時の、彼のあがきもちゃんと描いて欲しかったです。
(個人的にスランプ~解散期の3枚のアルバムは好きなんです。特に最後の「Thinder and Lightening」はメタルっぽくてThin Lizzyらしくないと言われてますが、めっちゃめちゃ聴き込みました)
そんなワケで、重要人物が登場しなかったり、ファンとして語って欲しかったエピソードを飛ばしていることを差し引くと70点ぐらいの出来です。
せめてThin Lizzyの後半~死ぬまでの時期もきちんと描いた3時間ぐらいの完全版を作って欲しいです。
その時は間違ってる作曲者のクレジット(「Got to give it up」の作曲者はスノーウィ・ホワイトではなく、スコット・ゴーハム)や、アメリカツアーの時に写ってる写真(日本の地下鉄と新幹線の中)は修正して下さい(笑)
この映画は他の国では配信しているようです。
しかし、例え日本で配信があったとしても、Thin Lizzyファンの僕は、ブルーレイを買っていたハズです。
余談ですがThin Lizzyは1996年からジョン・サイクスとスコット・ゴーハムを中心に再結成し、今もツアーをやっています。
僕も96年に中野サンプラザで見ました。
好きな曲ばかり演奏してくれるので嬉しかった半面、やっぱりフィルがいないThin Lizzyはただの同窓会バンドです。
個人的にフィル亡き後に、一番Thin Lizzyを感じさせてくれたのは、ゲーリー・ムーアが2005年に地元アイルランドの首都ダブリンでやったフィル・ライノット・トリビュートですね。これは泣けます。
ボーナストラックで、ゲーリー・ムーア、スコット・ゴーハム、ブライアン・ロバートソン、エリック・ベル、ブライアン・ダウニーのインタビューがあり、これも泣けます。
特にドラッグについてと、フィルの死ぬ間際の話はかなり生生しく、この映画にない部分を見事に補ってます。併せて見るといいんじゃないでしょうか。
このコンサートを主催したゲーリー・ムーアも既に亡くなって10年・・・
合掌