パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【ゼイリブ】電波系ホームレスの陰謀論

80年代の妖しい映画と言えばジョン・カーペンター

このブログでは初監督作品「ダークスター」と製作総指揮をした「フィラデルフィア・エクスペリメント」を取り上げました。

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

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しかし彼の本領は、名作「遊星よりの物体X」(1982)以降に乱発された超B級作品群です。

そんなわけで今回はカーペンター監督を最も堪能できる有名な極北B級映画ゼイリブ(1988)です。

初見は数十年前のWOWOWの放送です。さて今見るとどうでしょうか・・・

 

(あらすじ)

ホームレスの肉体労働者ナダが流れ着いた貧民キャンプを主催する教会が警察に摘発された。彼はそこで作られてた謎のサングラスを手に入れる。そのサングラスをかけてみると、世の中の看板は「従え」「消費しろ」「考えるな」といったサブリミナル文字や、金持ちや権力者に混じっている奇妙な顔をした人間が見えるようになった。貧富の差があるのは、奇妙な顔をしたエイリアンの陰謀であると信じた彼は、エイリアンを倒すことを決意する・・・


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はっきり言います。

主人公は電波系です。

何の根拠もなく、自分が見えるものを信じます。そこに理論はありません。

 

「あの醜悪な姿をしているのは、エイリアンだ!」

「貧富の差があるのは、エイリアンが富裕層と権力を牛耳って搾取してるからだ!」

「俺たちが貧しいのはエイリアンのせいだ!」

「だからエイリアンをブチ殺せ!」

 

ね、凄いでしょ?

 

普通の映画なら観客は「早く、周りのみんなも現実(エイリアン)に気が付いて!」とハラハラするんですが、この映画では常に「こいつ、大丈夫か?」と反対の立場になります。

極端な話をすれば「サングラスを通して見えてるのも、彼の幻覚では?」とさえ思えちゃいます。

 

更に反政府組織から「奴らはエイリアンだ。人間に擬態して、サブリミナル効果を使い富を集めている。だから貧富の差が広がっていくんだ」と主人公が説明され、彼は自分の考えが正しかったと確信します。

 

あれ、これって洗脳ですか?

典型的な陰謀論ですよね?

 

これって僕らがよく聞く話と同じですよね?

「我々が貧しいのは、裏で秘密結社が世界を操ってるからだ」ってやつ。

 

だから主人公は、陰謀論にハマった電波系の人なんじゃないんでしょうか。

 

更に・・・

 

・ エイリアンに見えるというだけで、警官をいきなりショットガンで撃つ

・ 追われてる途中で、女性をショットガンで脅した挙句、何も説明せずに助けてくれ、とお願い

・ 彼の発言を気持ち悪がるホームレス仲間と殴り合って、拳で分からせる

(この殴り合いが、嫌になるぐらい、無意味に長いです。)

 

絶対に友達になるの無理。

 

そんなキャラだし、物事をちゃんと説明できない(そもそも頭を使うのが苦手みたい)ので、周りに全く理解を得られません。

当たり前ですが、そんなマッチョな彼に観客は1ミリも同情出来ずに映画は進んでいきます。

 

なかなかこういう主人公設定の映画って珍しいですよ。

しかしそれだけでなく、カーペンター監督はこの映画自体を理解してもらおう、楽しんでもらおうという気持ちがないんです。

とにかく説明らしい説明がないだけじゃなく、安易な(雑な)展開がもてんこ盛り

 

主人公は一般人なんに、大勢の敵の弾は一発も当たらず、敵をバッタバッタと撃ち倒していきます。(それもリアルアクション系のように如何にもプロっぽい撃ち方ではなく、廊下の真ん中に立って、ただぶっ放すだけ)

 

世界中にサブリミナルとエイリアンの正体を隠している電波を発信しているのが、地方都市のテレビ局の屋上にあり、それを主人公が銃で撃つだけで簡単に壊れる

 

いやー、星間ワープ技術を持つエイリアンが、ド素人の侵入を許し、警備員を倒れされまくり、その上ちっちゃな拳銃で世界的なネットワークを破壊される・・・

 

どうした、エイリアン、お前も大丈夫か?と言いたくなります。

 

更にそもそも論ですが、エイリアンの見えるサングラス自体に明確な説明はないんです。

 

のび〇「ドラえ〇ん、またジャ〇アンにイジメられたよ~。なんで僕ばっかりイジメられて不公平だよ~」

ドラえ〇ん「仕方ないなぁ、のび〇君。(ピカピカピカ~)ホンモノメガネ!!!」

のび〇「この変なサングラスは何?」

ドラえ〇ん「これをかけると、みんなの本当の姿が見えるんだ。」

のび〇「ありがとう、ドラえ〇ん。これで悪い奴を見つけて、先にぶっ殺せばいいんだね!」

ドラえ〇ん「え?(汗)」

 

まぁ、こんなレベルなんですよ。

この昭和のスパイグッズ玩具にありそうな「サングラスをかけるだけで敵(エイリアン)が見える」はいろんなところでネタにされてました。

 

このように雑な設定を説明しないまま、観客を置き去りにしたまま突き進むのがカーペンター映画の神髄(笑)

この映画は、それを十二分に堪能できる一本であることは間違いありません。

 

そう言えば最後に主人公はアンテナを壊した後、撃たれて死ぬんです。

アンテナが壊れたことで、本当の広告(サブリミナル)やエイリアンの擬態がバレて、世界中の人々がパニックになる、というところで終わります。

 

超個人的解釈なんですが、実はエンディング自体は、彼が死ぬ間際に見た幸せな幻想かもしれません。

自分が真実を世間に知らしめ、陰謀を失敗に終わらせたという満足感に浸れる幻想・・・

そんなヒネた解釈はどうでしょう?

 

そう考えると、この映画は電波系お兄さんをバーチャル体験できる、トリップムービーって言えますよね?

 

こんな風に突っ込みどころ満載で、いろんなところでイジられる超B級ネタ映画の金字塔です。

でも、こんな映画を作っておきながら、ちゃんと次々と仕事があったカーペンター監督。

映画業界にそれだけ彼を支持する人がいるって凄くないですか?

カーペンター映画好きな人ってダメンズ好きの女性に似てるのかもしれません。

(残念ながら僕もその一人(泣))

 

この映画はU-NEXTのサブスクで見ました。

また普通にDVDも手に入るようです。

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