昭和生まれなので、「特撮」って言葉に弱いんですよ。
特に昭和30~40年代に作られた大人も楽しめる特撮がツボ。
そんな特撮の中で何が好きかと言われたら、まずは「海底軍艦」(1963)を挙げます。
メカ好きからしたら、あの海底軍艦・豪天号のデザインは痺れます。
今回TOHOシネマズが行ってる「午前十時の映画祭」という名作上映シリーズで、このお正月に「海底軍艦」が上映されるんですよ!
DVDも持ってるんですが、これは是非一度スクリーンで見てみたい!と思い、TOHOシネマズの入っている「ららぽーと横浜」まで出掛けました。
さて、大スクリーンで見る海底軍艦・轟天号の勇姿はどんなものか、レビューします!
(あらすじ)
深夜の横浜港でグラビア撮影していたカメラマン二人組は、海から蒸気を噴き上げて陸に上がろうとする謎の潜水服の男を見かける。その直後、タクシーが海に飛び込んだ。
タクシーは引き上げられたが、中に死体はなく、またタクシーは盗難されたものだと分かった。翌日、現場検証しているところで見かけた美女をモデルにスカウトしようと二人組は、彼女が勤める海運会社を訪ねる。そこで車に乗り込んだ海運会社の社長と女性を追いかけると、彼女たちがムー帝国人に拉致されようとする現場に遭遇。なんとか拉致を阻止する。そして翌日、警察にムウ帝国から世界と旧日本海軍が建造している秘密潜水艦を明け渡せ、とのメッセージが届いた・・・
いやー、満足しました。
この頃の東宝特撮って、ターゲット層が大人なんですよ。
だから話がかなりシッカリしてる。
製作されたのは1963年。
まだ戦後18年という、戦争の記憶が色濃く残っている時代。
神宮寺大佐は戦時中に愛娘を捨ててまで、反乱を決行。自分の部隊を引き連れ、日本軍から離脱し、日本帝国が再び世界に挑むため南海の孤島で秘密兵器・海底軍艦を建造してるんです。
1万年前に太平洋に沈んだムウ大陸にあった超高度文明ムー帝国は、人工太陽を使って海底の地下深く生き延び、かつての自分たちの領土だった世界を取り返そうとするワケです。
その障害になりそうなのが、彼らが偶然にも知った海底軍艦だったんです。
そこで神宮司大佐のかつての上官が、世界平和のため、ムウ帝国と戦うために海底軍艦を出動させてくれ、と頼むんです。
しかし神宮司大佐は「それは目的が違う!これは日本帝国再興のために建造したんだ。あなたには愛国心がなくなったのか!」と反論。
まだまだ戦後は終わってないことを感じさせます。
この葛藤こそが、この映画の肝だったりします。
戦後に育った愛娘には、軍国主義的愛国心はなく、また敗戦を目の当たりにし、今は海運会社を経営する元上官も「日本は負けたのだ。もはや戦争は終わったのだ」と語ります。
この映画は、戦後の葛藤をどっぷり話に落とし込んでます。
これは映画の作り手が、戦争を経験してるからでしょうね。
この重みが「海底軍艦」を大人向け映画にし、今でも名作として語り継がれる所以でしょう。
(そう言えば昭和の名作マンガ「鉄人28号」(1956-1966)の鉄人28号も、日本軍が戦争末期に決戦兵器として秘密裡に作ったロボットでしたね)
そんな葛藤のドラマは高島忠夫さん、上原謙さん、田崎潤さんら名優がしっかりと支えます。
高島忠夫さんは「キングコング対ゴジラ」(1962)などゴジラ作品や「フランケンシュタイン対地底怪獣」(1965)といった東宝特撮の常連とも言えます。コミカルもシリアスも同時に表現出来る稀有な俳優さん。個人的には「キングコング対ゴジラ」のお調子者の宣伝マンが好きなんですが、この映画ではコミカル味を抑え、全面に出過ぎないことで戦争の遺物「海底軍艦」の物語を引き立てていました。
この映画と言えば、話題になるのは狂信的と言える旧日本軍人・神宮司大佐。最後の高島忠夫さんに諭されるまで、すぐに激高する旧日本軍魂一直線のアブない司令官として、特撮史上に燦然と輝いています。この役を田崎潤さんが見事に演じていて、誰もが「海底軍艦」=神宮司大佐、という印象になります。戦闘になれば頼れる男です。
そんな彼を常に冷静に諭す旧上官を演じるのは上原謙さん。あの加山雄三さんのお父さんで、日本を代表する2枚目スターです。「もう戦後なのだ」と怒りまくる神宮司大佐を諭す、ダンディな大人は、実はこの映画で一番かっこ良かったりします。
個人的に印象深かったのはムウ帝国の工作員を演じた平田明彦さん。東宝特撮と言えばこの人です。この映画でもちょっとニヒルで、余裕のある工作員が似合ってました。
そう言えば小林哲子のムウ帝国皇帝は、気が強くも、幼さが残っている感じで、可憐な雰囲気がありました。
めちゃめちゃ可愛いわけではありませんが、刺さる人のは刺さる魅力だったんじゃないでしょうか。(僕は好きかも)
さて、そんな名優たちの重厚なドラマも魅力的ですが、なんといってもこの映画の魅力は海底軍艦・轟天号。
デザインは小松崎茂さん。
昭和の子供(男の子)向け雑誌にメカイラストを描いたり、サンダーバードとかのSF系プラモデル(主に今井科学)の箱絵を描いていた方です。
きっと僕の世代の男の子なら、「あっ!」と思う人は多いかも。
もう、これぞ昭和の空想科学兵器!というデザイン。
今見ても惚れ惚れします。
20年ぐらい前に「東宝マシンクロニクル」という東宝特撮に出てくるメカのガチャガチャみたいなもの(箱に入って売っているやつ)がありました。
一つ350円だったんですが、轟天号とメーサー殺獣光線車(「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」(1966)等に登場)が欲しくて、何箱もまとめ買いをしたものです。
海底軍艦の魅力はデザインだけではありません。
特撮の円谷英二さんが、「メカの中では飛行機が一番好き」と語り、海中から浮上するシーンに拘りを持っていただけあって、地底基地から発進し、ゆっくりと海上に浮上してくるシーンはカッコいいの一言。
この見せ方があるから、デザインの良さも映えるんです。
(今のCGに慣れた目には、ちょっと厳しいところもありのは仕方ないです)
円谷さんの「海から浮上して、空を飛ぶ」ことへの拘りは、この後テレビシリーズの「マイティジャック」(1968)にも引き継がれるわけです。
一度目は宇宙戦艦としてデザインし直され、「惑星大戦争」(1977)に登場。
二度目は「ゴジラ FINAL WARS」(2004)で、冒頭でほぼオリジナル通りの轟天号が登場。その後、現代風にリニューアルされた轟天号が登場します。
他のメカ描写も見せ方が凄いです。
メカシーンでは、実際の自衛隊車両の映像(キャタピラの車両が東京の街中を走ってるんです!当時はこんなことがあったんでしょうか?)の迫力がスクリーンだと倍増。
キャタピラーをアップにするなど見せ方が非常に上手いです。
これも戦争中に、実際の車両を目の当たりにした人達だから作れる迫力なのもしれません。
そして目を引くのは爆発シーン。
アメリカの損水管が深海で圧潰するところや、丸の内が地震で陥没するところは「凄い!」の一言。これをミニチュアでやってるかなー、と感心してしまいます。
だが、反対にムウ帝国の守護神マンダ(竜)の動きはちょっと残念な感じ。
最初に窓を開けると、マンダの巨大な鱗が見えるシーンは迫力がありました。
でも、海の中を泳ぐシーンは明らかに操演バレバレ。
轟天号が、メカらしいキビキビとしたリアルな動きをしているだけに、一層「不自然さ」が目立ちました。
この後に東宝が作った特撮「緯度0大作戦」(1969)でも、主役の潜水艦の見せ方は素晴らしいのに、怪獣グリホンはとっても残念な感じでした。
さて今回改めて気が付いたのはムウ帝国の摩訶不思議さ。
超高度な文明で、海底の地下に人工太陽を持ち、高層ビルの間を空飛ぶ列車が行き来しているんです。勿論、攻撃用潜水艦もあります。
でも街中は石で作られた神殿風で、ムウ帝国民はアステカ文明のような民族風の半裸衣装。
潜水艦には破壊力抜群のレーザーがあったり、地震を意図的に起こせる装置があったり、手のひらサイズの超高性能爆薬があったりするのに、ムウ帝国の警備員の武装は槍。
そして皇帝には踊りを捧げるというアンバランスさ。
住民レベルでは全く超高度文明の香りがしないどころか、近代以前の部族に見えます。
でも、見ている間は意外と気にならないんですよ。
古代の巨石文明や衣装を出すことで古代文明の雰囲気を出していて、見ている方に「ムウ帝国は超古代文明」と思わせる仕組み。
これ、「思い込ませるための映画の嘘」ってやつなんだなぁ、と思いました。
この映画は、古代超文明 VS 旧帝国海軍の超秘密兵器という、昭和のセンス・オブ・ワンダーの詰まった科学冒険談です。
きっと今ではもう作れない映画なんでしょうね。
昭和の特撮の良いところがぎっしりと詰まった作品なので、特撮好きな人なら是非一度見て下さい。
お勧めします!
最初に「これは是非一度スクリーンで見てみたい!」と書きましたが、見終わってフと20代の頃にどこかの劇場で、オールナイトの東宝特撮特集で見てたような気がしてきました。
記憶っていい加減ですね。
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