日本の娯楽映画のナンバーワンに挙げる人も少なくない快作「太陽を盗んだ男」(1979)。
天才監督と言われた長谷川和夫監督の二作目です。と、言っても彼はこの映画の後1本も撮ってないんですが。(今年の1月に逝去されました)
とにかく初めて見た時、面白くて、面白くて仕方なかったんですよ。
欧米の映画にない、邦画独特の面白さが満載。
これ、外国では絶対出せない味です。
主演は沢田研二さん、菅原文太さん + 池上季実子さんなんですが、もう全編通して沢田研二さんの存在感が圧倒的。
彼抜きにして、この映画はなしえなかったでしょう。
っていうか、これは「沢田研二さんの映画」と言っても過言ではないです。
そんな快作をレビューします!
(あらすじ)
高校のうだつのあがらない理科教師である主人公は、社会科見学の帰りに武装した老人にバスジャックされる。警視庁のベテラン刑事・山下警部の命をかけた活躍で犯人は射殺、主人公や生徒たちは無事救出される。そしてこの日から主人公は更に無気力になっていくが、その裏では警察署を襲撃し拳銃を奪取。更にその拳銃を持って原子力発電所に侵入し、プルトニウムを強奪する。そして主人公はアパートの自室で原爆を自作する。しかしそれは何も明確な目的のない原爆だった・・・
この映画の特徴は、主人公がただただ興味本位で原爆を作っただけってこと。(多分)
基礎体力作ったり、学校でフェンスを越える練習をして、原子力発電所からプルトニウムを奪って、一般で手に入るものだけで原爆を作っちゃう。その計画と実行力はずば抜けてます。
警察に包囲されたデパートからの脱出、ラジオへの生出演、国会議事堂への偽原爆の設置など、頭脳が恐ろしくキレる上に、回転も速い。
そしていつもどことなく覚めていて、面白くなさそうな顔をして、感情をほとんど表に出しません。
まさに完全無欠の悪漢・・・の、ハズですが、実は大きなピースが抜けてるんです。
原爆を作ったけど、それで何をしたいんだっけ?。
原爆を使って大金を得るワケでも、政府に無理難題をさせるワケでもありません。
でもこの主人公は作った後のことは全く考えてないんです。
主人公で且つ悪役なら「分かり易い目的」を持って行動するのが普通じゃないですか。
ピカレスクロマン(悪役主人公のドラマ)でありながら、原爆を作り終えた物語の中盤から、実は何も目的がないというのは異例中の異例。
多分、作ったことは自慢したくて警察に電話をすると、「お前の目的はなんだ!」って聞かれて、「えーと、えーと」ってなって、焦って出てきたのが「今やってる巨人対大洋の試合を最後まで放送しろ」。
(昭和の時代は野球は放送時間が決まっていて、その時間になるとまだ試合が続いていても放送終了になるのが当たり前でした)
その後の彼の行動は、ただただ「原爆を持っている男」ということをアピールしたいだけ。
彼は自分のことを「9番」と称します。
原爆を持っている8つの国「アメリカ、ソ連、中国、イギリス、フランス、インド、イスラエル、南アフリカ」に続く、9番目の核保有者という意味。
彼の自室にはこの8か国の国旗が飾ってありました。
それだけ原爆を持っているということには拘りがあったんでしょう。
(主人公が野球好きだから9番というダブルミーニングもあるのかもしれません)
この主人公を魅力的にしたのは、間違いなく演じた沢田研二さんのお陰。
彼でなければ、ここまで魅力的にならなかったし、この映画の評価もワンランクは下がったと思えるほどの存在感です。
共演の菅原文太さんや池上季実子さんといったプロの役者さんの中にいても、引けを取りません。それどころか完全に食ってます。
当時の沢田研二さんは歌手として絶好調の時代でした。
シングルを出せば有名歌番組「ザ・ベストテン」で常に上位にランクされる、押しも押されぬスーパースター。
この映画は「カサブランカ・ダンディ」がヒットしていた頃です。
既に映画やテレビに出演していたとは言え、まだまだグループサウンズ時代から続くアイドル的な雰囲気を残していました。
そんな美形スターの彼が冴えない高校教師で、キレものなのか、そうじゃないのか分からないような悪役を演じられるなんて、普通は思いもよりません。
しかし、この映画ではつまらなさそうにしている高校教師の顔、原爆が完成した時とかに時折みせる無邪気な顔、そして稀に見せるシリアスな表情を、いい意味での軽さを保ちつつ、演じ分けてるんです。
プロの役者でもここまで出来なる人は少ないんじゃないんでしょうか。
その中でも無邪気な時に見せるコミカルな演技が上手いアクセントになってました。
特に原爆が完成した時に、部屋の中でボブ・マーレイのレゲエに合わせて踊るシーンや、野球中継が延長されて喜ぶシーンが印象的です。
反対に警察に勝ったのに、原爆を持って銀座を虚しい表情で彷徨うように歩くラストシーンも忘れられません。
最後に原爆が爆発する音して終わるんですが、それは本当に彼が爆発させたのか、それとも頭の中だけの想像なのか、微妙にぼかしていいるのもいいです。
当時の沢田研二さんを主演に抜擢した長谷川監督の目はまさに彗眼です。

ライバルを演じた菅原文太さんは、強面を前面に押し出して、スタンダードなベテラン刑事を演じてます。
鉄の意志と主人公逮捕という強い目的を持った刑事です。
まさに主人公と真逆のキャラで、二人の対比・対立がとっても良いです。
この二人に押し負けしてしまったのが、主人公に寄り添うラジオのDJを演じた池上季実子さん。
今回見るまで彼女が出ていたことをすっかり忘れてたんです。
それも結構重要な役で、出演場面も多いのに。
明らかに沢田研二さんと菅原文太さんの存在感と二人の丁々発止のやり取りの前に、存在感が薄くなってしまったようです。
(決して演技が下手でも、役が不似合いでもないです)
今見ても全く色褪せない超傑作娯楽映画。
上映時間は2時間半近くありますが、飽きる隙がありません。
俳優、脚本、演出の全てが高水準です。
脚本を書いたのは監督の長谷川和彦さんとレナード・シュナイダー。
レナード・シュレイダーは米国出身で、「日本語と英語のどちらでも脚本が書ける」人で、「男はつらいよ 寅次郎春の夢 」(1979)やアメリカ映画の名作「蜘蛛女のキス」(1985)の脚本を書いています。
ちなみに彼の実弟・ポール・シュレイダーも脚本・監督家で、「タクシードライバー」(1976)の脚本など有名作品を多く担当しています。僕らの世代だとナスターシャ・キンスキー主演の「キャットピープル」(1982)の監督と言えば分かるでしょうか。
本当、日本でこんなに面白いピカレスクロマンが作れるなんて、今でも信じられません。
なのに長谷川監督はこの作品を含めて2本しか撮ってなんですよ。
もっと映画を撮ってもらいたかったなぁ・・・
最後に池上季実子さんがラジオの公開放送をしているシーンでカルメン・マキ&OZの「私は風」(1978)が流れました。
僕が大好きな曲です。
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