「エレメント・オブ・クライム」(1984製作/1987日本公開)。
ずっとこのタイトルを忘れてました。
この映画を見たのは第二回東京ファンタスティック映画祭(1986)。
大した前情報もなく、前売りを買って見に行ったんです。
なんでこの映画を見ようと思ったかは不明。
犯罪者と同一化するという設定が面白そうだったのかもしれません。
今となっては謎です。

その時の印象は「ワケが分からない」。
反対にワケが分からなさすぎて、印象に残るぐらいでした。
当然もう一度見たいとは思いませんてしたが。
かなりマイナーな映画で、その後、どの雑誌にもネットでも出会うことがなかったんです。
「このまま忘れ去られていくんだろうなぁ」と普通に思ってました。
前回レビューした「星くず兄弟の伝説」(1985)と同じてすね。
ところが最近、この映画が僕が加入しているサブスクにアップされているのを発見。
もう怖いもの見たさで、何がワケ分からなかったのか検証したくなりました。
そんなワケでこの映画をレビューします!
(あらすじ)
エジプトの住む元刑事の主人公は、迷宮入りになりそうな少女連続殺人事件の犯人も追うべく、ヨーロッパに呼び戻される。彼は犯罪者の心理に入り込むことで、犯人を追う手法を使うため、その手法を確立した文献「犯罪の要素(エレメント・オブ・クライム)」の作者である警察学校の恩師を訪ねる。しかし彼もその手法を使って、少女連続殺人事件を追っていたが、今はその手法を激しく否定し、犯人はもういないと告げる。それでも主人公は恩師が捜査中に残したメモを元に、恩師が犯人と目星をつけた男の足取りを追っていく。しかし追っていくうちに、主人公は犯人と徐々に心理的に同化するようになる・・・
話は今見ると比較的シンプル。
連続少女殺人事件の捜査をするために、エジプトに逃れていた、昔の腕効き警官がヨーロッパに呼び戻されます。
この設定は、ちょっと「ブレードランナー」(1982)っぽい。
主人公は犯人の心理と同化する手法を取ります。
それは世間では異端の烙印を押された手法。
犯人の足跡を追ううちに自分が犯人そのものになっていき、最後は自分で猟奇殺人を完遂させようとしてしまう、っていう展開は、話だけ聞くと魅力的でしょ?
犯人の心理と同化するのは、今ではよくあるプロファイリングってやつですね。
まぁ、プロファイリングに馴染みがなかったとしても、そんなに難しい話ではありません。
それでも何で当時、あそこまで「ワケわかない」ってなったのか?
今回その理由が分かりました。
それは映像です。
絵作りはいいです。
初めて見た時、全編オレンジ基調に統一された、独特の退廃的な映像は、強烈に脳裏に焼き付きました。
そこは今でも変わらないし、大いに評価出来ます。
ただし、これは1枚の絵として見た場合です。
問題は話としての絵作り。
例えば警察の資料室に行くと、腰まで水に浸かっているような部屋なんですよ。
その他の場所も屋内、屋外を問わず、水が降ってるんです。
それだけじゃなくて、どこのホテルの部屋も汚いし、窓が割れてたりと、異常な風景。
明らかに非現実的。
そんな映像が延々と続くわけですから、この映画は現実なのか、非現実なのか分からなくなるんです。
そこで出てくるセリフ(それも結構回りくどい言い回し)を事実として受け止めていいのか、それとも主人公の幻想や思い込みなのか全く分かりません。
そこが混乱の原因のようです。
これはきっと映画は、プロファイリングをしながら犯人を追っている主人公の内面世界なんですね。
彼が現実で経験したことが、彼の内面で再構築されて、それを見せられてるっぽいです。
心情風景ですね。
そのため、真剣に映像から謎解きの情報を得ようとしてはいけないんです。
映像はあくまでもイメージを見るだけ。
話の筋は彼の行動から汲み取るしかないです。
犯人の行動を後追いしてくのですが、ヒントを拾い上げて理論的に推理を構築していくなんてプロセスはありません。
正直、観客は「プロファイリングを使って、どうやって犯人を追い詰めるか」という理論的な推理を期待してたと思うんです
でも、主人公はズブズブと犯人に没入していき、行く先々のヒントや閃きを辿って、彼の足跡を追っていくだけ。
後追いしていくうちに、ホテルに宿泊する時に自分の名前ではなく、犯人の名前を言っちゃうぐらいまで「成り切り」するんですよ。
これはミステリーではなく、旅もの(ロールプレイング)なんです。
そりゃミステリーだと思ったら、混乱しますよね。

クライマックスは、同化してしまった主人公が犯人の代わりに少女を殺して、犯人の計画を完遂してしまうのか?なんですが、あんまり盛り上がりません。
寧ろ、プロファイリングの手法を確立し、この捜査を最初に担当した自分の上司の逃げた嫁さんが、実は自分が最初のホテルで紹介され、連れて歩いてる娼婦だと分かったところが一番ミステリーっぽい驚きがありました。
ちなみにこの娼婦は後に彼女が犯人の恋人だったらしいことが判明します。
演じているのはミー・ミー・レイという中国系(多分)の女優さん。
キレイだけでなく、妙にイヤラしいんですよ。
ここポイント。
ミー・ミー・レイ(メ・メ・レイとも読むらしい)はこの映画以外は「食人帝国」(1980)、「カニバル/世界最後の人喰い族」(1976)、「怪奇!魔境の裸族」(1973)といった映画に出てるんですよ。
明らかに超B~C級の匂いがプンプンするタイトルばかりですが、この映画より興味が沸きます。
この映画は奇妙で、個性はあって、だけど一般ウケするのは難しい作品なので、典型的なカルト作品として分類されているようです。
まさにその通りで、「普通の人が見ても、何が面白いかサッパリ分からない」こと間違いないです。
僕も映像表現は評価するし、話の展開も悪くないとは思うんですが、総合的に映画としては面白みが薄く、興味も惹かれません。
監督のラース・フォン・トリアーはこの映画が長編デビュー作。
この後も個性の強い、変わった映画を作り続け、遂にはデンマーク版「ツインピークス」と言われるTVシリーズ「キングダム」(1984)を作ってます。
「キングダム」は当時、日本ではWOWOWで放送され、僕も観ました。
確かに奇妙な映画でしたが、デヴィッド・リンチのような突き抜け感がなくて、期待した分、ちょっとフラストレーションが溜まったのを覚えています。
どうもこの監督と僕は反りが合わないようです。
ちなみに名作と言われてるビョーク主演の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)もこの監督でした。不思議。
さて、結論としては39年前より「ワケは分かりました」が、もう一度見ることはなさそうです。
お母さん、ごめん。
昔よりは分かったけど、やっぱり何がしたいかよく分からなかったよ。
単品DVDはBlu-rayは入手困難です。この監督のヨーロッパ三部作の一本として高価なボックスセットで購入することは可能なようですが・・・
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