「昭和の妖しい映画目撃者」って書いてる限り、昭和のカルト映画は避けられません。
カルト映画好きにとって「避けられない映画」っていうのがあります。
今回取り上げる「ビデオドローム」(1983) は、まさにそんな一本。
僕の世代でカルト好きを自称するなら、「この映画を観たことがない」とは口が裂けても言えません。
そんな映画です。
ともかくブルース・リーの名台詞「考えるな、感じろ」を地で行くような作品。
(あ、名台詞の使い方、間違ってます???)
今回も感じるために見てみました!
(あらすじ)
弱小ケーブルTV局の社長である主人公は、日ごろから人々を惹き付ける過激なコンテンツを探していた。そんな時、友人から正体不明の海賊放送を受信したという連絡を受ける。そこに映っているのは、だだ広い部屋に連れてこられた女性が拷問をされ、殺されるというものだった。その迫力に押され、スナッフフィルム(実際の殺人が映っている映画の俗称)ではないかと思いつつ、その謎の放送に強く惹かれる。
恋人とその放送のビデオを観ているうちに、彼女は徐々にSM指向を強め、遂には海賊放送の発信源があるというピッツバーグへ行ってしまう。
彼は恋人を連れ戻すためにも、その海賊放送「ビデオドローム」が危険だと警告されながらも、その世界にはまりこんでいき、やがて不思議な現象が彼の周りの起こり始める・・・
何年かおきに観てますが、いつも見終わった後に「きっとこういう話だったんだろうな」と自己解釈するしかない映画です。
「2001年宇宙の旅」(1968)と同列ってことですかね?
(その比較は強引?)
監督はデヴィッド・クローネンバーグ。
「スキャナーズ」(1981)「ザ・フライ」(1986)っていう分かりやすい作品も撮るけど、「裸のランチ」(1991)や「イグジステンズ」(1999)のような迷路のような摩訶不思議(それもグロい)世界を見せてくれるので有名。
カルト好きには堪らない監督の一人です。
そんな彼のカルト的代表先は、この「ビデオドローム」。
とにかくワケが分からないのに目が離せないという怪作。
アレハンドロ・ホドロフスキーの「ホリー・マウンテン」(1973)のように、「頭から尻尾まで本当にワケが分からない」レベルではなく、ちゃんとストーリーらしきものがあって、全編に興味を引くエピソードが散りばめられているんです。
ただ「じゃ、どんな話だったの?」と全体像を問われると、きちんと説明出来ないのも事実。
海賊放送(違法放送)の拷問・殺人映像(ビデオドローム)に魅せられて、ずるずるとその世界に引き込まれていく導入部はワクワクします。
主人公の恋人が一緒に海賊放送のビデオテープに映る裸の女性が拷問される映像を観て、肩にある傷を見せて自分がマゾであることを仄めかすシーンからゾクゾクです。
そしてタバコを吸いながら、裸の胸に自分でタバコを押し付け、恍惚とした表情を浮かべ、そのタバコをまた吸うシーンは本当に引き込まれます。俺もSM趣味だったのか?と勘違い(自覚?)しちゃいます。
でも、本当に凄いのは、そのタバコを主人公に差し出すところ。
明らかにタバコを吸うように渡したんじゃなくて、「あなたも私の胸に押し付けて」と無言の誘い。
すげーーー
それを戸惑いつつ、明らかに興味のある目で受け取る主人公。(SMに目覚めたっぽい)
すげーーー
このやりとり、下手なAVよりエロチックです。
(タバコを受け取ったところでシーンが切り替わるのも上手い)
そんな恋人を演じるのは、この映画が女優デビューのデボラ・ハリー。
妖しさ全開の一言。
「ビデオドローム」のSMの世界にズブズブはまっていく姿を、かなり色っぽく演じていて上手いの一言。
彼女のために書かれた役では?ってぐらい似合ってました。
デボラ・ハリーと言えば、僕らの世代で洋楽好きなら、あのブロンディのリーダーでフロントマン。
バンド時代もその妖艶な雰囲気が有名でした。
だからこの役を演じても、洋楽ファンの僕からしたら何ら不思議ではありません。
ブロンディと言えば、1980年に全米1位になった「コール・ミー」ですね。
この映画には、1982年にブロンディを解散して、ソロ活動に入った頃です。
デボラ・ハリーのことばかり書きましたが、主演のジェームズ・ウッズも、どことなく狂気を秘めていて、ビデオドロームに破滅させる男を好演。
僕は何故か、昔かからジェームズ・ウッズと「ロボコップ」(1987)で主演を務めたピーター・ウェラーを混同しちゃうんですよね。
さて、出だしはSM入門映画ですが(笑)、本編は「合理的解釈をしようとしたら負け」の世界。
暴力的な映像(ビデオドローム)を通して人々を支配しようとする組織の全容が徐々に明かされ、主人公はどんどん翻弄されていきます。
僕らも「ビデオドローム」という映画を観ているうちに、クローネンバーグ監督が作り上げた「ビデオドローム」という異世界に迷い込んでしったと思った方がいいのかもしれません。
闇の「不思議の国のアリス」の気分でしょうか?
ウネウネと息づくビデオテープや、TV画面に映った迫ってくる唇に顔をのめり込ませたり、画面から拳銃を持った手が出てくるぐらいはまだよかったんです。
まだ「幻想的だな~(きっと主人公の幻覚)」って気持ちで観てました。
けど、自分の腹に手を突っ込むと、拳銃がくっついて出てくるとか、その拳銃がウネウネと触手を伸ばして手と一体化するとか、もうワケ分からず。
「ビデオドローム」がただの暴力映像を通して人を洗脳する映像ではなく、ビデオ(放送、TVの中の世界)が生き物のようになって人を洗脳していくんですよ。
もう合理的に理解しろっていうのが無理です。
反対に主人公を取り込もうとする組織が出てくるんですが、彼らの目的が彼のTV局から「ビデオドローム」を流しまくって、民衆を洗脳して、自分たちの理想の世界を作るっていうのは、右翼っぽくて超分かり易かったです。(褒めてない?)
さて、この不気味な世界を具体化しのはリック・ベーカー。
「スター・ウォーズ」(1977)や「狼男アメリカン」(1981)、マイケル・ジャクソンのビデオクリップ「スリラー」(1983)等で超有名な特殊メイクアーティストです。
まぁ、僕らボンクラ映画ヲタクには「デス・レース2000年」(1975)や「溶解人間」(1977)を担当したことも忘れてませんが。
そんな造形以外にも、摩訶不思議なものがいっぱい。
「TVの画面を見続けることで魂の救済が行われるという宗教団体」
「ビデオドローム側の人間が撃たれた後、体がどんどん割れる」
「こだわりの芸術的ポルノ映画を作り続けている老女やビデオを通してしか話をしない大学教授がキーマン」
と、かなり普通の映画ファンだと頭に ??? が浮かぶ設定が多いです。
まぁ、僕はニヤニヤしながら見てましたけど。
結局、主人公は「ビデオドローム」の世界に取り込まれたことで「ビデオドローム」を作っている組織に操られて人を殺し、次は反ヴィデオドローム組織に諭されて、ビデオドローム側の人間を殺し、最後は自分を解放するために自殺をするという殺伐とした展開。
結局、主人公はただの駒だったという話なんでしょうか。
ちなみに主人公が捨てられていたTVに映った自殺する自分の姿を観て、その通りに自殺するんですよ。
正直、なんのこっちゃ?ですよね。
要はTV(ビデオ)に全て操られる世界から逃れられないってことなんでしょうねかね?
でも何か妙な納得感があるんですよ。
さすがクローネンバーグ監督。
一つ一つのエピソードには意外に「その場」ではちゃんとしているので、「ワケ分かんないものを見せるなよ~、つまんないよ~」っていう気分にはなりません。
そのお陰で、最後まで見れるんですが、見終わった後に「???」となります。
きっと監督も理解して欲しいワケじゃないんでしょうね。
繰り返しになりますが、まさに「考えるな、感じろ」でした。
このシュールな世界と難解な展開は、この後に作られた「裸のランチ」と似てます。
クローネンバーグワールドの双璧ってところでしょうか。
なので、もしこの映画を気に入ったら、「裸のランチ」もお勧めです。
ただしグロい虫がいっぱい出てくるので、虫が苦手な人は見ない方がいいでしょう。
あとプチネタ。
冒頭に日本人が主人公にポルノ映画を売り込むシーンがあるんです。
それが時代劇ポルノ。
数分のシーンしかないんですが、結構失笑ものです。
何が失笑かは観てのお楽しみ。
でも、60-70年代は時代劇でエログロ娯楽映画がいっぱい作られてましたから、時代劇ポルノ自体はあっても不思議ではありません。
(大昔に似たようなものを観たような記憶もあるし)
あと「ビデオドローム」の危険性を警告する教授の名前がオブリビオン。
これって「忘却」とか「無意識状態」を表す言葉ですね。とっても暗喩っぽいです。
さて、カルト映画としては満点です。
映画館で観るのもいいですが、夜中に部屋を暗くしてTVで観ることをお勧めします。
ということで、言い換えれば普通の人には、かなりキツい映画だと思います。
Blu-rayはかなりお手頃で手に入るようです。
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