パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【フルメタル・ジャケット】キューブリックのベトナム戦争

映像作家として映画史に名前を刻まれてるスタンリー・キューブリック監督の戦争映画フルメタル・ジャケット(1987製作/1988日本公開)。

 

僕が初めてリアルタイムで見れたキューブリック映画です。

そして見た時は半分満足、半分不満でした。

今回見直してどうでしょうか?

 

(あらすじ)

ベトナム戦争の泥沼化しつつあった頃、徴兵された主人公は海兵隊の訓練キャンプへと送られる。そこでは地獄のような訓練が待っていた。同期であるレナードは何をやってもダメな男で、担当軍曹から連日のようにシゴキを受け、更に連帯責任を取らされる仲間からも疎んじられてしまう。しかし彼は射撃に天才的な才能を見せるが、キャンプ終了の前日に事件を起こしてしまう。

報道局員に任命された主人公は、最前線での取材を命じられる。訓練キャンプの同期がいる部隊に同行し、戦場の現実を見ることになる・・・

 


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この映画を見たのは、岐阜のピカデリー劇場という映画館。

今は岐阜club-Gというイベント会場(ライブハウス?)になっています。

 

確か「フルメタル・ジャケット」は同時上映なしの単独上映だったと思います。

 

当時、「地獄の黙示録」(1979)から「奥の深い戦争映画」の流れが出来、「プラトーン」(1986)や「シンレッドライン」(1998)が生まれした。

この映画もそういった「考えさせられる戦争映画」でした。

キューブリック監督は一括りにされるのは嫌でしょうが)

フルメタルジャケット パンフレット表紙

 

パンフレットと同じデザインのポスターを、ずっと自分の部屋に飾ってました。

今でもかっこよくで好きです。

 

Born To Kill ー 人殺しをするために生まれてきた

 

海兵隊っぽいですね~

 

2時間弱の映画ですが、前編・後編に綺麗に分かれています。

前半は徴兵された若者が、鬼軍曹に地獄のような訓練を課され、兵士に仕立て上げられる話。

まぁ、理不尽なぐらい人扱いされないわけですよ。その様を徹底的に描くんです。

それも「愛と青春の旅立ち」みたいに、本当は鬼軍曹はいい人で、一緒に頑張った仲間たちとのかけがえのない絆も出来た、なんて美談には全くなってません

ひたすら非人道的な扱いを受け、片寄った思想を植え付けられるだけ。

こんなに訓練キャンプをじっくりと、且つ冷酷に描いた映画ってないんじゃないですかね?

 

この映画で一番印象に残ったシーンは?と聞かれたら、後半の戦闘シーンではなく、間違いなくこの訓練シーン。

もっと言えば「フルメタル・ジャケット」と言えば、この訓練シーンだと思ってるのは僕だけじゃないはず。

 

この映画の影響は大きく、今でも軍隊の訓練シーンと言えば、この映画がモチーフになってます。

有名になったのは軍曹の掛け声を繰り返しながらランニングするシーン、

その掛け声が全て卑猥なネタ。

 


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今までの戦争映画では描かれなかったものを描いた、という点で、キューブリック監督らしいと言えます。

そんな訓練シーンでも、ドラマがあり、特にグズで苛められる男が、射撃に特異な才能が見つかってから、精神が崩壊していく展開はオチも含めて鳥肌ものです。

 

余談ですけど、このランニングシーンは当時発売されたファミコンの戦争シミュレーション「ファミコンウォーズ(1988年発売)」がパロディとしてCMに使ってました。

 


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後半は戦争シーン。

主人公は海兵隊の報道局員として、最前線の部隊に同行することになります。

その部隊も既にグタグタで、部隊としての統率が緩い感じ。

もっと言えば米軍自体が緩い感じです。

 

休憩中もグタグタ。

兵隊たちのやる気になさ、厭戦気分と惰性感がめっちゃ出てます。

 

この戦闘シーンですが、ベトナム戦争なのにジャングルがほとんど出てきません

ほとんど、街中で話が進みます。

物の本によれば、ベトナム戦争って街中での戦闘もそこそこあったようです。

ジャングルの中、汚い恰好で貧相な武器しか持ってない北ベトナム軍&ゲリラというのは、完全にアメリカが作ったステレオタイプなのかもしれません。

 

そして戦闘になると一転して緊張感が高まります。

この辺りの切り替えはさすがキューブリック監督。

廃墟から狙撃手が一人の兵隊を撃つんです。

狙撃手はトドメは刺ささず、次は腕、次は足、を撃っていく。

何故か?

瀕死の仲間を助けようとする兵士を誘い出すためです。

そして近づいてくる兵士は一発で仕留める。

要は最初に撃たれた兵士はなんですね。

こえーーー

 

この廃墟のシーンが撮影されたのはイギリスなんですが、解体予定の建物を部分的に破壊して廃墟に仕立てたので、とにかくスケール感もあり、リアルです。

 

この場面に、初めて劇場に見た時から気になるシーンがあるんです。

それはレンズに炎が映りこんでいるところ。

カメラマン出身で、完璧主義者のキューブリックらしくなくて、個人的にいただけないです。

彼なら撮り直してもよさそうなんですけど、なんでそのままにしたんでしょうか。

もうあのシーンはどう頑張っても映り込むのは避けられないってことなんでしょうか。

 

ラストにアメリカ兵がミッキーマウスマーチを歌いながら、夕闇の中を進軍するシーン。

これはめっちゃ印象的で、美しいです。

ベトナム戦争という、誰もが悪夢に感じる戦争で流れる、夢の国を思い出させるミッキーマウスマーチ。このミスマッチな組み合わせが最高です。

 

全体的にレベルは高いし、「現実から目を逸らさない」キューブリックらしい視点の戦争映画だったと思います。

ただそれでも、この映画を諸手を挙げて最高と言うことはできません。

やはり致命的なのは、前半と後半で綺麗に話が分かれてしまってること。

 

一本の映画ではなく、凄く出来の良い中編映画を続けて二本見させられた感覚です。

 

だから僕が初めて見た時の感想「半分満足、半分不満」は、今回も変わりませんでした。

 

今回はPRIME VIDEOのサブスクにあったので、勢いで見てしまいました。

DVDはお手軽な値段で手に入るようです。