「ハウリング」(1981)は当時現代風にアレンジされた狼男映画です。
昔から「狼男」って言いますけど、この「男」って「人」っていう意味ですよね。
だから正確には「人狼映画」でしょうか。
人狼ってなんか今風ですよね。
(あらすじ)
頻発する猟奇殺人事件の犯人にニュースキャスターのカレンは襲われるが、間一髪のところで警官が犯人を射殺して難を逃れる。彼女は襲われた時の記憶を失うが、昼間は幻覚、夜は悪夢にうなされるようになる。そこで医者の勧めで、山の中にある療養所に行くことになった。しかしで生活する人々は誰もがどことなく異様な雰囲気だった・・・
監督は前作「ピラニア」で、SFホラー映画ファンに注目されていたジョー・ダンテ。
この低予算映画がヒットしたことで、彼の名前は一般の映画ファンの間にもを広がりました。
ちなみにこの年は「狼男アメリカン(81年)」「ウルフェン(81年)」と他に二本の狼男映画が作られた珍しい年です。
(この映画と「狼男アメリカン」は特撮スタッフが重なっていて、ちょっと親戚みたいな関係です。後述します)
当時、この映画のCMをTVで見たんです。
そこで見た狼男に変身するシーンは衝撃でした。
それまでの狼男映画の変身シーンって、人間の姿に徐々に狼男の姿を重ねていって、最後は狼男の姿だけになるというやつが主流でした。フィルムを重ねるやつです。
でもこの映画は、特撮で人間がメキメキと変形して狼男になるんですよ!!!
すげー---!!!
これは見るしかねぇ!
でも映画館から出る時は「うー-ん」
超消化不良。
キチンと作ってあります。
変なお遊びもありません。
真面目です。バカバカしいようなところはありません。
安っぽさもないです。
勿論、特撮は素晴らしかったです。
でもね、この映画、「タルい」んです。
どこに問題があるんだろう?って考えたら、話が問題なんだって気づきました。
構成は悪くないんです。
前半は狼男を出さずに、いろんな兆候やヒントになるような物事で不安な雰囲気で静かに進み、後半に一気に狼男が出てきて、クライマックスは狼男とのバトル。
変なところはありません。
オーソドックスです。
普通です。
しかし、この普通っていうのがクセものでした。
前半がとにかくまどろっこしい。
だからと言って、前半のうちから狼男をバンバン出したり、「バーニング」や「フライングキラー」みたいに無駄エロ(サービスエロ?)をバンバン出せって言う意味ではありません。
単純に話の膨らませ方が足りないんです。
スカスカなんですよ。
伏線はシンプルだし、ミスリードさせるような展開もない。
ひたすら真っ直ぐの道を脇目もふらずにズンズン進んでる感じ。
連続猟奇殺人事件のことなんてほとんど触れられてないけど、きっと観客はどんな事件だったか知りたかったと思うし、犯人像も部屋に入って変な置物やスケッチを見つけるだけ。犯人のキャラクターって大事なのに、背景も含めて全くの掘り下げ不足です。
登場人物に推理したり、調査するような人物を配置していないのがイタイです。
主人公の同僚が唯一、TVや本屋で狼男伝説を見て「これか!」と思った程度。
安易じゃないですか?
反対に「そんなことだけで、勝手に狼男って決めつけちゃって危険じゃないですか?」ってこっちが心配になります。
本当は「一見バラバラに見えるいろんな事実は、狼男というワードで結びつくんだ!」という発見&謎解き展開が欲しかったです。
とにかく全体的にキャラクターの掘り下げや事件の真相や背景などの情報量不足が、映画に面白みと深みがない原因です。
それと気になったのは音楽。
担当するのはブライアン・デ・パルマ作品の常連ピノ・ドナッジオ。
この人、本当に美しい曲を書くので、僕は大好きです。
特に映画「ミッドナイトクロス」の音楽は最高です。
でも、この映画では甘ったる過ぎて、合ってないんです。
こういうのもホラー映画としての雰囲気を壊してるんじゃないんですかねー。
映画の欠点ばかり書いちゃいましたが、ジョー・ダンテの監督ぶりは悪くありません。
この人、良くも悪くも50-70年代B級ホラー映画が好き!というのが伝わってきます。
彼の演出や画面作りは、50-70年代B級ホラー映画から安物臭さを抜いて、きちんと丁寧に再現した豪華版(?)みたいな感じです。
とってもB級映画愛が溢れています。
彼の監督としての力量があったから、この底の浅い脚本でもここまでヒットさせることが出来たんでしょうね。
あとは何といっても特撮。
前述しましたが、とにかく狼男への変身シーンはエポックメイキングでした。
特撮を担当したのは当時21歳のロブ・ボッティンという若者。
この映画と翌年の「遊星からの物体X」で一躍ホラー映画の特撮一人者に上り詰め、90年代を中心に大活躍します。
実はこの映画は、当初特撮の大物リック・ベイカーに打診があったらしいですが、既に映画「狼男アメリカン」の仕事をしていたので、弟子のボッティンに任せたとのこと。
しかし出来上がった変身シーンに師匠のベイカーはびっくりし、「負けてられねぇ」と「狼男アメリカン」の狼男変身シーンを作り直したんだそうです。
「ハウリング」では月明かりが差し込む夜の部屋で変身するんですが、師匠のベイカーは「狼男アメリカン」で、あえて特撮が難しい「昼間に変身するシーン」を見事に作り上げています。師匠としてのプライドを掛けたんでしょうね。
「ハウリング」は大ヒットを受け、その後も第八弾まで続編が作られています。
僕は見たことがないのですが、出来はどうなんでしょうね?
(直接この映画と話が繋がっているのは、「ハウリング2」だけ。ジョー・ダンテは続編には一本も関与していません)
ちなみにこの映画はセルDVDは廃盤、サブスク系でも配信はありません。
見たい方にはレンタルDVDか、お手頃な中古DVDをお勧めします。