僕が最も敬愛する監督、デビッド・リンチ。
彼のデビュー作は「イレイザーヘッド」(1977製作/1981日本公開)という、とっても奇妙な映画です。
(あらすじ)
うらぶれた工場地帯に住む行員ヘンリーが恋人の家に行くと、異形の赤ちゃんを産んだと告白される。ヘンリーは彼女と結構し、赤ちゃんと3人の生活を始める。そして彼は現実とも悪夢ともつかない世界に落ちていく・・・
今までの映画人生で、映画館から逃げ出したいと思った映画が二本あります。
それは「ゾンビ」と「イレイザーヘッド」
「ゾンビ」の怖さは分かりやすいです。
しかし「イレイザーヘッド」は血がドバドバ出るわけでも、殺人鬼が闊歩するわけでもありません。
モノクロの重苦しい画面の中で、奇妙な人たちが奇妙な人間関係と不気味な幻想を繰り出す、まるで真夜中のサーカスに一人で招待されているような、不安感を最大限に煽る映画。
この映画を見たのは偶然でした。
当時、僕の地元(岐阜)では映画は二本立てが当たり前。
この日のお目当てはアルバート・フィニィ主演の狼男映画「ウルフェン」。
「イレイザーヘッド」はこの映画の添え物で、興味はありませんでした。
しかしお金を払った限り、興味がなくとも見ておくというのが貧乏学生の鉄則。
何の情報もありませでしたが、文芸作品として評価の高かった「エレファントマン」のデビッド・リンチの監督作品なので変な映画ではないだろうと勝手に思ってました。
そして映画が始まるや、謎のオープニング(主人公のアップから、宇宙に住む異形の男が上半身裸で、線路の切り替え作業みたいなことをやっている」から「????」になりました。
その後は一旦、工場地帯を冴えない主人公歩いているという普通のシーンになるんですが、恋人の家についてからは、もう異形と不条理と理解不能の嵐。下手なお化け屋敷よりも怖いです。
デビッド・リンチは格調高い文芸作品の監督などではなく、「グロテスクで異形で不条理」な、格調高い見世物小屋の座長が本性だったのです!
また、当時見た映画館は岐阜でも寂れている部類の上に、観客は僕以外、ほとんどいないことも不安に拍車をかけてきます。
怖い
でも席を立てない
怖い
最後まで見ましたが、トラウマっていうのはこういうことを言うのかと実感しました。
今までにない映画体験で、未だに唯一絶対です。
似ている映画を挙げるとするならホドロフスキー監督の不条理ウェスタン(キリスト教劇)「エル・トポ」でしょうか。
そして僕はこの映画に取りつかれてしまいました。
数年後、早稲田の名画座にジョン・カーペンターの「クリスティーン」のリバイバル上映を見に行きました。三本立てだったんですが、映画館に入ったら、バーンと画面には「イレイザーヘッド」・・・など、その後もちょこちょこ「イレイザーヘッド」に出会ってしまいます。
そして今では、僕自身がこの映画を「ちょっと見たく」なるようになりました。
まさに麻薬効果。
相変わらず筋はよくわからないですが、ブルース・リー師匠の言う
「考えるな、感じろ」
なんでしょう。
更にこの監督にも取りつかれてしまいました。
気が付けば彼の映画を漁るように見ており、自分の棺桶にデビッド・リンチ版「DUNE/砂の惑星」か「ブルーベルベット」を入れて欲しいぐらいになりました。
どの作品も悪趣味炸裂で、「エレファントマン」と「DUNE」以外は話が意味不明な映画ばかりなので、普通の人には勧められません。ですが僕にとっては唯一無二の監督であり、「イレイザーヘッド」は唯一絶対の映画です。
(でもこの映画は棺桶に入れてもらうのは怖すぎる)
ちなみに、彼の作風にちょこっと触れたいなら、NETFLIX限定の「ジャックは一体何をした?」をお勧めします。僅か17分の短編ですが、デビッド・リンチワールドを堪能出来ます。
あの日、「ウルフェン」を見に行こうと思った時点で運命は決められていたんですね。
その時、お目当てだった「ウルフェン」はその後、一度も見てません。
サブスクでもレンタルでも見かけません。国内版DVDも絶版になってる模様。
こちらはどんな映画だったか、全く思い出せません・・・